「女子と本気勝負!」
Text by 薮平
「テニス2」

中学、高校での強烈な体験もあってか、大学に入るころには、ますます自分より
強い女性、本気で戦っても打ち負かされてしまうような女性を求めるように
なっていました。大学では、高校でやっていたテニスや、中学でやっていたバド
ミントンのサークルに入りました。ただし、自分の大学は理系の大学で女子が
少なかったため、近所の大学にも女子の多いサークルを探して、複数のサークル
に籍をおいていました。自分がかなわないような強いコを探し求めていたように
思います。しかし残念ながら、大学のサークルですから、そんなに強いコはいま
せんでした。バドミントンのサークルには中学からの経験者の女子がいて、一度
胸をときめかせて試合をしました。しかし、良い勝負にはなったものの、私も
経験者ということがあって、本気勝負では私が勝って内心がっかりしました。

同じ学科の女の子に卓球部のコがいて新入生研修旅行の時に卓球室があり、
本気試合をして軽く負けました。しかし、高校の部活のテニスでめぐみさんに
負かされた時のような強烈な屈辱感は得られませんでした。自分なりに、
[男子対女子とはいえ、経験者と未経験者ということで、負けてもしょうがない
状況だからかな]と分析しました。となると、自分の得意とする(はずの)
テニスやバドミントンで負かされるような女性こそ、最大の屈辱感を与えて
くれる女性だということがわかりました。

しかし私の行動力(やる気)を持ってすれば、テニスの強い女性を探すのは
そんなに難しいことではありませんでした。
私がテニスサークルに籍をおいていて、毎週のように出入りしていたA大学は、
体育会テニス部の活動が盛んでした。そして経験者の女子がたくさんいました。
しかし、まさか部外者の男が単身乗り込んで試合をしてもらうのも変な話です
し、知り合いもいないので、遠くからコートでの練習を眺める位でした。用も
ないのにわざわざコートの近くをうろうろしていました。果たしてどれほど強い
のかは見ただけではわかりませんが、見るたびに、自分が試合したら負けて
しまうかもしれない、と妄想していました。見た目は緩いボールなのに、試合を
してみたらじわじわと追い込まれて負かされてしまった、高校の時のめぐみさん
との試合がフラッシュバックしました。

私が3年生の時に、そのA大学の体育会テニス部に、1年生ですごく強い女子が
入ってきました。名前はK子さんといって、身長165位のすらりとした
スレンダーな美人でした。経験者揃いの体育会女子の中でもその強さ、うまさは
一目で別格とわかりました。そのプレーは女子のものと言うより、男子のそれも
上級者のように見えました。私は一目でファンとなりました。このコと試合する
ようなことになれば、どのようなことになるのだろう。もしかしてレベルが
違いすぎて相手にもならないのではないか、今まで経験したこともないような
惨めな負け方をするのではないか、と妄想をめぐらせていました。何とかお近
付きになって一緒にテニスをするような状況を作りだしたい、と考えました。
学部、学科ともわかっていましたが、他大学の者という負い目があり、いきなり
声をかける訳にもいかず、結局、彼女のプレーを外から眺めてあこがれるだけ
でした。

最初で最後のチャンスは思いがけずめぐってきました。
毎年9月頃に、A大学の学内のサークル、同好会所属のメンバーが自由に参加
できるシングルスのトーナメントが開催されます。参加費をとって上位入賞者
には商品があるような一応ちゃんとした大会です。体育会の男が出てくると
面白くないのですが、体育会は審判など裏方をやることになっていて出てこない
ので、我々のようなお気楽サークル選手には、楽しい大会でした。ところが、
今年からは女子も参加可能とする、ということになりました。しかも女子の場合
は体育会でも参加可能ととするということでした。私は心ときめきました。
女子と、しかも大学内の公式な試合で対戦できるなんて!私は他大学でしたが
サークル所属だったので、参加資格があり、さっそく申し込みました。
この時ほど、わざわざA大学のサークルに入っていて良かったと思ったことは
ありません。

大会が近づくにつれ、一つ不安になりました。強い女子と対戦できるのかという
ことです。もしかしたらK子さんはエントリーしないかもしれない。他の体育会
女子でも十分強いのでしょうが、組み合わせによっては女子とあたるまえに自分
が男に負けてしまうかもしれない、と考えました。K子さんが出ないとしても、
こんな機会はめったにないので、何とか女子と対戦したいと考えました。そう
考えるといてもたってもいられなくなり、大会の一週間前に事務局(たしか大学
生協かなんかと思いましたが)に行ってみました。トーナメント表は決っている
かと聞くと、まだとのことでした。すべて抽選で決めると言ってました。
エントリー表を見せてもらいました。そこにK子さんの名前を発見した時には
心踊りました。全体で4、50人の参加者だったと思います。女子の参加は
思ったより少なく4、5名でした。すべて体育会の女子のようでした。ここで
私は勇気を振り絞ってお願いをしました。「1回戦でK子さんと対戦させて
ください。」担当者は怪訝そうな顔をしましたが、快諾してくれました。実は
女子との対戦を尻ごみする男のほうが多いので、そういう男がいると助かるとの
ことでした。

大会当日は、青空のひろがる気持ちの良い朝でした。私は前夜から興奮してよく
眠れませんでしたが、朝は早くに目がさめました。朝8:30位から開会式が
あり、私とK子さんとの試合は10時からでした。10時少し前に指定のコート
へ行くと、K子さんはもう来ていました。K子さんは、いつも練習で来ている
地味なウェアではなく、試合用なのでしょうか、上下ともピンクの可愛いウェア
を着ていました。ピンクのスコートからすらりと伸びたスレンダーな脚がきれい
でした。
[ああ、なんて素敵な女性なんだ]
彼女は髪を後ろに束ねていました。浅黒く日焼けした顔は近くで見ても可愛いと
思いました。
「よろしくお願いします」
こんなチャンスはありませんので、お近付きになろうと思って、いろいろ話し
かけようとしたと思います。しかし、K子さんは早く試合がしたい様子でした。

K子さんの強さは有名であり、試合を始めようとすると、コートの周りに人が
集まってきました。K子さんはそれを気にせず、試合に集中しようとしていま
した。試合前のK子さんの真剣な表情を見ていると、これが女子との本気の試合
なのだということが感じられ、うれしくなりました。私も最大の本気で戦って、
K子さんがどれだけ強いのかを身を持って感じられればと思いました。

試合は私のサーブで始まりました。K子さんの実力は思っていた以上にすごい
ものでした。これまで、相手が男でも、これほど強い相手と試合したことはあり
ません。しなやかな身のこなしから繰り出される、ストロークがまるで
スマッシュのように速く、追いつけません。追いついたとしても振り遅れて
しまいます。自分としては良いサーブを入れたつもりでも、スパーンという
良い音を残して、K子さんのリターンが私のコートにつきささります。リターン
のノータッチエースを連続で決められました。
[ああ。やっぱりすごい。]
この時点で、私は1ゲームもとれないのではないか、あっという間に6−0で
負けてしまうのではないか、という思いがよぎりました。
あっと言う間に、ラブゲーム(1ポイントもとれない)で第1ゲームをとられ
ました。
「ゲーム  ウォンバイ  ミス○○(K子さんの名字)  ゲームカウント1−0」
審判をやってくれている体育会女子のコールがありました。この形式ばった
ミス○○というコールが、女性を相手に公式戦をして負けている状況を再認識
させられました。

2ゲーム、3ゲームと彼女にあっけなく取られていきます。試合の盛り上がりも
なにもありません。そこにあるのは、大勢の見ている中で、女子に一方的にやら
れていく、犯されていく男の姿です。まさに『容赦なく』という感じでした。
周りで見ている人達からは、男が一方的に女子に負けていることに驚きの声が
上がっているようでした。見ている男達は私に同情しているような感じでした。
しかし女の子達はK子さんの応援らしく、黄色い歓声が私を突き刺しました。

K子さんはサーブも一級品でした。速いサーブを確実にバックハンド側に入れら
れるので、返せません。なんとか返せたとしても、彼女はネットへつめており、
スマッシュで仕留められます。
[ああ。すごい。なんて強いんだ。とてもかなわない。]
彼女の可愛くて素敵なフォームから繰り出されるショットがコートに突き刺さる
のを、私はどうすることもできず、むなしく立ち尽くすだけでした。

[少しは自信を持っていた自分のテニスを、男のテニスを、この可愛い1年生の
  女の子にかるくひねりつぶされてしまう...]
[みんなの見ている前で、女の子になぶりものにされてしまう]

ほとんどポイントをとれないまま、あっという間に5−0になりました。
チェンジコートの休憩の際にはもう圧倒的な勝利を確信したためか、
彼女の表情は柔らかくなっていました。そして、金網の外で見ている応援の女子
にVサインを出したりしました。
K子さんは、かがんで髪を束ね直したり、シューズ紐を結び直したりして
いました。片ひざをたてて結び直しているので、ピンクのスコートの下から、
真っ白に輝くアンダースコートがこちらに丸見えでした。女性に犯されていく
被虐感、焦燥感、そして興奮は頂点に達しました。興奮しても良いように試合
を前に、短パンの下にきつめのサポーターパンツをはいていたのですが、
私はとうとうその中に射精してしまいました。

試合は、そのまま簡単に終わりました。試合後にネット越しに握手をしました。
ここまでコテンパンにやられてしまっては言い訳もできず、私はうなだれて
いました。K子さんはにこやかに握手をしながら「すみません」と言いました。
圧倒的に打ち負かされてしまったあげく同情までされてしまった訳です。

私は試合後しばらくこの地獄絵図の余韻...実は私の求めていたもの、に
浸っていましたが、気をとりなおして、その後のK子さんの試合を見にいき
ました。2回戦、3回戦とサークルの男を圧倒しどんどん勝っていきました。
準決勝では、昨年、一昨年とこの大会で優勝している男との対戦でした。
この男も、自分のサークルの応援の中で、気合を入れてがんばりましたが、
K子さんの本気のショットを返すことはできず、あっさりと負かされてしまい
ました。そして決勝でも危なげなく男を打ち負かし、結局難なく優勝して
しまいました。
男達はK子さんの圧倒的な強さの前に敗れ去りました。自分の仲間や、もしか
したら自分の彼女の見ている前で...ある男は泣きそうな顔でコートを去り、
ある男はラケットにやつあたりしていました。K子さんは、男達のテニス
のレベルを確かめながら、それを確実に片づけていくという感じでした。
体育会の女子の強さを、つまりはサークル、同好会レベルの男では、体育会の
女子には到底かなわないことを見ているみんなに示そうとしているようでした。
これまで、サークルの中では大きなことを言って、初心者の女子などを指導して
いたナンパな男達は、男としての威厳、あるいはサークルの存在の意味さえも
たった一人の女性に、この1年生の可愛い女の子に崩されてしまった訳です。

決勝戦の後に、簡単な表彰式がありました。屈辱感にうなだれる男達を尻目に、
K子さんは、にこやかな顔で、賞状と副賞を受け取りました。
応援に来ていた体育会の女子達は輪になってはしゃいでいました。
その黄色い声が、我々敗れ去った男達の屈辱感をより大きくしていきました。

その後のサークル活動では、なんとなく我々男はサークルの女子にバツが悪か
ったように思います。女子の方でどう思っていたかはわかりませんが
「一人の女子選手、それも1年生にかなわなかった男達」のレッテルが重く
のしかかっているように感じました。

それからというもの、私はこの強烈な被虐体験をいつもフィードバックさせては
夢想にひたっていました。暇を見つけては、A大学へ足を運び、体育会の練習を
遠くから眺めていました。そこにK子さんの姿を発見すると、自分が負かされて
いる場面が蘇ってきました。私は完全にK子さんのとりこになっていました。

その次の年、私が4年生の年になって、私はあのトーナメント大会を楽しみに
していました。またK子さんに、自分がなぶりものにされてしまう。腕自慢の
男達が次々と女の子に打ち倒されてしまう、考えただけで興奮してきました。
しかしその年は体育会の女子は出ないことになったと聞きました。
がっかりして事務局に問い合わせました。よくわからないが、他の試合の日程
との関係ではないか、と言っていました。しかしあとから分かったことですが、
その日には体育会女子の試合はありませんでした。これは、きっと昨年無残な
負け方をして女子に優勝をさらわれた男達が、今年は怖くなって泣きを入れたの
だろうと考えました。まあ、今年やってもK子さんが出てくれば軽く優勝して
しまうでしょうから、男達が逃げるのも無理はない気がしました。負かされた
男達みんなが、あの被虐体験から立ち直れずにいるのでしょう。

ある日、A大学へ行って、体育会の練習コートを見ていると、部内の練習試合
をしているようでした。K子さんが今から試合をするようです。しかも相手は
男のようです。私はときめいて、コートの近くへ急いで行きました。相手は
体育会の男子です。審判がちゃんとついていること、二人の真剣な表情から、
本気の試合だということが見てとれました。

試合が始まりました。相手の男はまさに体育会という感じで、筋肉質で大柄
な男でした。さすがにそのパワーとスピードはK子さんを上回っているように
見え、K子さんには部が悪いようでした。男は、もちろんK子さんの強さを十分
知っているのでしょう。相手が女性だということをまったく意識せず、本気の
ショットを打ち込んでいるようでした。その男らしい腕から豪快なショットが
放たれ、K子さんを追いこみました。序盤は1ゲーム、2ゲームと男が取り
ました。しかし、3、4ゲームと進むうちに、だんだんK子さんが男のスピード
に慣れてきたのか、良いショットを返すようになりました。そして、丁寧に
コーナーを攻めるK子さんのショットに、男がミスをするようになって
きました。

[この流れは!...きっとこの男はK子さんに逆転される。]
私は、結果が見えたような気がしました。私が高校の時に体験したような、女子
のテニスのペースに持ちこまれ、じっくり責められてミスを待たれるような、
その術中にはまっているような気がしたのです。案の定、私の予感は当たり
ました。じわじわと3−3に追いつかれてからは、急に男のミスが多くなり、
男が焦れば焦るほど、K子さんの術中にはまっていきました。そこからは試合は
一方的になりました。K子さんは、焦燥感、屈辱感でパニックになっていく男を
確実に追い込んでいきました。はつらつとしたショットを男のコートに打ち込み
続けました。男はショットを打つたびに「あっ」とか「だっ」とか大きな声を
出すのですが、追い込まれていく中では、それが悲鳴のように聞こえ、むなしく
コートに響いていました。体育会の男が、女の子に負かされていく...普通の
男ではありません。厳しい練習を、中学や高校の頃から毎日毎日続けてきたこと
でしょう。その男のテニスが、この女の子に軽くつぶされてしまうのです。男の
テニス人生があっさりと否定されてしまうのです。彼の気持ちはどうだった
でしょう。
[ああ。女に負かされる。惨めだ。みんな見ている。恥ずかしい。勝ちたい。
  けどもう勝ち目はない。どうしようもない。ああ、逃げ出したい。]
試合が終わりました。男はうなだれていました。K子さんはにこりと笑って、
たった今打ち負かした男に何か話しかけていました。K子さんは自分の方が強い
ことを誇ったのでしょうか。それともみんなの見ている前でなぶりものにして
しまった男に同情したのでしょうか?この男のその後の人生はどうだった
でしょうね。それともあの強さですから、K子さんが部内の男を負かしてしまう
のは、日常茶飯事だったのかもしれません。

私は、K子さんとお近づきになりたい、できればお付き合いしたいと、真剣に
考えた時期もありました。それは夢のような話です。自分がどうやってもかなわ
ない女性、いつでも本気の試合をして、コテンパンに打ち負かされる...
しかし、結局卒業まで、K子さんの近くまで行く勇気はありませんでした。
私のように自分より明らかに弱い男は相手にしてくれないだろうと考えました。
また彼女は有名人でしたのでいろいろ噂が聞こえてきて、他大学の体育会の主将
と付き合っているという噂も聞きました。[やはり弱い男より強い男が好き
なんだろうな]と思いました。残念でしたが、あきらめることにしていました。

K子さんは、その後社会人になっても、実業団のチームで活躍しました。
全日本の大会でもいいところまでいったようです。テニス雑誌の片隅に、彼女の
活躍を見るたびに、私の脳裏には自分が受けた、またたくさんの男達が受けた
被虐体験が鮮やかに蘇るのです。


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