「女子と本気勝負!」Text by 薮平
テニス1
←prev ↑back ⇒next  
GBb
高校の時、私は、テニス部に所属していました。
女子部員と練習試合で対戦する機会もありましたが、私の場合負ける事に
快感を覚えるからといって、わざと負ける訳にはいきません。
クラブ活動をやっていた方はわかると思いますが、
女子に負ける事は、男子にとってクラブ活動を続けていけない程の汚名と考えられていました。
私が1年生の時、部内の練習試合で、
順子先輩と対戦した圭一郎先輩が負かされるのを目の当たりにしました。
最初は押していた圭一郎先輩でしたが、
苦手なバックハンドを丹念につかれ、あっさり逆転されました。
圭一郎先輩は、真っ赤な顔でコート上を走り回っていましたが、
試合が決まるにつれ顔は青くなっていきました。
6-2で試合があっけなく決まった瞬間、
試合後の握手をしにネット中央で待っていた順子先輩の会心の笑みと、
がっくりと膝をついてうつむいたまま、
なかなか動けなかった圭一郎先輩が対象的でした。
圭一郎先輩は、
「女子に負けたら坊主」
という部内の掟どおりに、次の月曜日五分刈りにしてきました。
その後しばらく、圭一郎先輩は女子と口をきけなかったと聞いています。
私は、「圭一郎先輩みたいに負かされてみたい心」と、
「部内での地位を守らなければならない心」の葛藤がありましたが、
部活動という共同生活の中では、後者が大きく勝っていました。
そういう訳で、1年、2年の時に、部内の試合で3回程女子と対戦する機会がありましたが
(本当は負かされたら快感だろうな、という想いつつ)
皆の手前、超本気でやって勝ち、心とうらはらに「女に勝って当然」
みたいな大きな事を言ってはしゃいでいました。

3年生になって、ついにその時がきました。
とある日曜日の事です。この日は男子の大会の個人戦の日で、日程の関係で
その日試合のなかった男子は自由練習、女子は近くの女子校と練習試合を
組んでいて、私は、(好きな後輩女子のスコート姿を見れる事もあって)
コートに行きました。男子は私を含めて数名程でした。
私は、隣で試合している女子のスコート&パンチラに目をやりつつ、
男子どうしで練習していました。
相手女子校の主将は、インターハイ全国大会でいいところまでいったとか
いう事で、うちの学校の女子では歯がたたないようでした。
名前はめぐみさんといいました。
しばらくして男子に声がかかりました。
めぐみさんは「男子と試合したい」と言っていました。
私たち数名の男子は、本能的にヤバイと思いました。こんな女子が大勢見て
いる前で、女子に負かされたら大変です。インターハイ全国大会という単語が、背筋を寒くしました。
私たちが尻込みしてると、めぐみさんが直接交渉にきました。
「試合相手をお願いします。」
そのつぶらな瞳は、まるで
「女の子に挑戦されて逃げるなんて男じゃないですよ。」
「女の子に負けるのが恐いんでしょう?」
と言っているように見えました。
誰がやるかで、男どうしで話し合った結果、案の定、私という事になりました。
その日いた他の男子は皆後輩で、その中では私が一番強かったからです。
めぐみさんは、身長155位、見た目はきゃしゃな感じで、童顔につぶらな
瞳の可愛い女の子でした。スコートから細い足がすらりとのびていました。
(もちろん色は真っ黒ですけど)
こんな可愛い、きゃしゃな娘が、男よりも強い球を打てるはずがない。
インターハイといっても、女子テニスのレベルの中でであって、
男子のテニスを見せ付けてやれば、大丈夫だ。というように自分を勇気づけました。
 
とにかく超本気でやることにしました。
女性に負ける事は快感だけど、こんな状況では、失うものが多すぎます。
好きな後輩も見ています。
ここでかっこいい所を見せれば、後輩も自分を好きになるかも...。
試合が始まりました。審判は我が校の女子部員。
他の女子部員たちもコートの周りを取り囲んで見ています。
1ゲーム目は、めぐみさんのサーブ。
サーブもストロークも思ったよりもゆるくて、返せました。
[そうか、速い球でエースをとるタイプではなく、つなげてつなげて、
相手のミスを待つタイプだな。それなら力でねじ伏せてやろう。]
しかし、何球もつなげられている間に私の決めようとする球がアウトして
しまい、ゲームを取られました。
薮平0-1めぐみ
「いやいや、エンジンのかかりが遅いんだよ」めぐみさんに対して強がりを言いました。
2ゲーム目は、私のサーブ。力でねじ伏せようとするサーブが、
決まってくれて、ゲームをとりました。
薮平1-1めぐみ
[これで勝てそうだ]といい気になった私は、言ってはならない事を言って
しましました。「しょせんは女の子のテニスだね。」
めぐみさんの表情が変わった気がしました。
 
3ゲーム目、めぐみさんのボール速くないのに、こちらは決める事ができません。
打ち込んでも打ち込んでも、ボールがかえってきます。そのうちに
アウトしてしまう、の繰り返しで、ゲームをとられました。
薮平1-2めぐみ
[あれれこんなはずでは。]
4ゲーム目、私のサーブを思い切り打ち込んでも、かえってくるようになってしまいました。
サーブがかえってきた後は、つながれてつながれて、
こちらのミスでポイントを取られてしまいます。
サーブで決めなければ取られる、の想いが、私にプレッシャーを与え、
ついには、サーブも入らなくなってしまいました。
薮平1-3めぐみ
[おいおいおい。このままじゃ、女の子に負けちゃうよ。]
 
このころから、自分の顔が青ざめていくのがわかりました。
[もしかしたら女子のテニスはこんなに強いのか。
俺のテニスはこの女の子のレベルにかなわないのか。
このまま女の子に負かされていく姿を皆にさらすのか。]
その後は、冷静さも失い集中力も切れ、ますますめぐみさんの術中に
はまり、一方的にやられてしましました。
 
めぐみさんは、余裕の笑みをうかべるようになり、右へ左へと私を振り回し
私のミスを誘い、確実にポイントを重ねていきました。
一番確実な方法で、私を仕留めようとしているようでした。
それがわかっていても、どこに打ってもかえってくるので、どうしようもありませんでした。
今から思えば、実力の差は歴然としていました。
[もうだめだ。このままでは女の子に負かされてる。もうどうしようも
ない。ここから逃げ出したい。でも逃げられない。]
 
めぐみさんにスマッシュを決められる
時に、白いアンダースコートが見えました。
[ああ。こんな可愛い女の子にパンツまで見せられて、負かされる。]
 
また自分の学校の女子部員たちが、私を応援している訳ではない事もわかりました。
めぐみさんのポイントが入る度に、女子部員たちの「イェー」
という黄色い声が私を突き刺しました。
コートの周りの女子皆から犯されているようでした。
我が校の女子部員も、「男を負かす快感」を共有した
かったんでしょうか。好きな後輩も同じように、面白がっているようでした。
「ほらー。男の子がんばれー。」
 
薮平1-4めぐみ
薮平1-5めぐみ
薮平1-6めぐみ
あっけなく試合は終わりました。
ふらふらになるまで振り回され、汗まみれ、泥まみれの中、
立ち上がれない程の屈辱感につかりました。
私は半泣きになっていました。
めぐみさんは、汗ひとつかいていないような涼しい顔で、
笑顔で近寄ってきました。
「男子のテニスってたいした事ないんですね。」
 
その日にいた男子の中で、自分が一番強いなんてこと、恥ずかしくて言えませんでした。
「女子と本気勝負!」Text by 薮平
テニス1
[←prev] [↑back] [⇒next]   [Home]
GIRL BEATS BOY