MIX FIGHT今昔物語
Text by UU
その12「妙子VS誠一郎〜奇譚クラブ短編集C」

 またまた、奇クから、ご紹介します。
 この「あわれ誠一郎」は、初期格闘M小説の傑作です(あ、短編ではない(汗))。

 日文世古六「あわれ誠一郎」は、奇譚クラブ昭和30年5月号に掲載されました。
 懸賞入選作品、佳作第二席、とあります(?)。
 
 小男で非力で、元々自分より大きい女に反発を感じていた、誠一郎が、自分より大
きい新妻妙子と結婚した(勿論、お見合い)処から、この小説は始まります。
 妙子は、古いタイプ(当時でも)の嫁で、義母に、尽くすことばかり考えていて、
誠一郎は面白くない。つい飲んで帰っては、愚痴を言い、妙子が無抵抗なのを良いこ
とに、時には、暴力を振るうこともあった。
 しかし、ある晩、酔って殴りかかってきた誠一郎を、妙子はついに抑え付けてしま
う。圧倒的な実力差、これに気づいた妙子は、少しずつ横暴になって行きます。(笑)
 
>>>>>>>
 結婚後もう五年も経つと、新妻だった恥しさももうなくなってしまっている妙子は、
今では全く誠一郎を征服してしまって、その呼び掛けにしても、二人っきりになると、
「あなた」といっていたのが、「お前」と呼ぶ様に変ってしまい、誠一郎の方は、妙
子を「お前」などとは何かに圧せられて云えなくなって、「お妙ちゃんお妙ちゃん」
と従う様になっていた。 (中略)
「ね、お前、男のくせに女のわたしに、こんなにされて口惜しくないのなさけない男
ね。一ぺん誰かにお前がわたしにこんなにされているところを見せてやりたい様な気
にもなるわ」と、妙子は組敷いた誠一郎の身体にどっしりと大きなそのお尻で跨って、
憐れみを乞う様な誠一郎の顔を見下し乍らその優越観を見せることもある。
「又お前飲んで来たんだね。少し手綱をゆるめると直ぐに増長するんだね。よし、今
夜はカチカチ山の狸にしてやるから。」と
 それは、或る土曜日の夜、飲んで帰った誠一郎を妙子が締め上げた言葉なのであっ
た。
 カチカチ山の狸というのは、よく子どもの絵本などに捕えられた狸が爺さんを欺し
て縄を解いてもらう迄に四つ足を縛られて吊されているのがあったその様に、両手両
足を一しょ{ママ}に縛り上げて転がすことであり、そんなこと位、妙子は誠一郎がい
くらもがいて手足をばたつかせてあばれても苦もなくやってのけるのであった。
「カチカチ山の狸はこの上まだ吊し上げるんだが、可哀想だから吊し上げだけはかん
にんしといてやる。」と四つ足縛りに縛って誠一郎を布団の外へ転がしておいて、妙
子はぐうぐうと寝てしまう。朝になってもほどいてくれずに、妙子は起きると着替え
乍ら、「どうだ。口惜しいか。」と、転がされてもうぐったりしている誠一郎の顔を
片足でぎゅっと踏みつけたまま見下し、暫くそうして踏みつけていてから、トントン
トンと階下へ下りてゆくのである。(中略)
 昼前になって、段梯子を上がってくる足音がして、妙子が二階に姿を見せると、ま
だ朝のままに転がっている誠一郎のあわれな姿の顔の方へ来て、立って見下し乍ら、
「どう。こたえた?、全く降参した?」と笑う。
「もうこらえてくれよ」と、誠一郎は哀願する。
「いいえ、まだまだ、しかし手足だけは自由にしてやろうかな。」と縛しめを解いて
はくれるのだが、(中略)
 誠一郎はやっと手足が自由になって、それでも暫くはぐったりとしていたが、(中
略)そろそろと身体を起こしかけると、
「おや、お前、わたしに詫びもせずに逃げ出す気かい。そうはさせないよ。」と、見
て居たものを投げ出すと立って来て誠一郎の手首と首筋を掴むと猫の子を引づる様に
机のところへずるずると引づって行って直ぐに又組敷いて馬乗りになると、投げ出し
た雑誌を再び拾い取って跨ったままに読みはじめる。(中略)
「どう、情けない? では、私の前に両手をついて頭を畳にすりつけて詫びる?大分
いためつけたから詫びるなら今日は許してあげる。」と、それは存分に誠一郎をおも
ちゃにしてからの妙子の許し言葉なのである。
「どう、あやまる?」
「うん、もうかんにんして、あやまる、あやまるゥ。」
「よし。」
 誠一郎は(中略)妙子に、
「一ペン位負けておくれよ。たのむから。」
 と云うのであるが妙子は笑って、
「男のくせに、なさけないことを云いなさんな。負けてもらって勝って、何がおもし
ろいの。それよりも私に実力で勝てる様になりなさい。」と云ってどうしても負けて
はくれなかった。
 ああ、一ぺんでも女の子に勝って自由にしてみたい。いっそ十二三の子供を相手に
してみようか、いや、やっぱり一人前の強い女に勝ってみたい。
 これが誠一郎の念願なのであるが。
                                >>>>>>
 この作品の最後には、ご丁寧にも、雑誌や新聞に載っている、女に殺された男の話
が、誠一郎のコレクションとして、紹介されています。(笑)
 多分、作者の、なのでしょうね。

 日文世古六は、この他、昭和29年12月号に「栄吉の半生」という、やはりチビ
で、いつもいつも女とケンカしては、組み敷かれ嘲笑われる男の半生を描いています。

 もうひとつ、次は、昭和40年の8月号から、「ある夏の間奏曲」です。
 
 体験記の形をとっています。
 まだ二十歳前の私(栄二)は、1年間の入院生活の後、療養のため、父の別荘に、
看護婦と二人で、一夏を過ごすことになる。
 そこで近くの別荘に住む、二つか三つ年上のきりっとした顔立ちの美人、宏子さん
と親しくなる。彼女は、私(163p54s)より大柄(168p60s)で、健康
的な小麦色の肌をしていた。
 私は、宏子さんと、海に泳ぎに行き、水の中で散々にいたぶられる。どうやら彼女
は、私を虐めることが、楽しいようであった。勿論、私も・・。
 大量の水を飲み、気を失った私は、宏子さんに人工呼吸をしてもらって、ようやく
息を吹き返す。互いの気持ちを確認し合った二人は、固い岩の上で熱い肌を寄せ合う。
 熱を出して寝込んでしまった私のもとへ、宏子さんから手紙が届く。
 そこには、私への熱い思いと、アマゾンの女戦士のように、男と戦って勝ちたい、
という彼女の夢が、綴られていました。
 栄二は、手紙に書かれていた待ち合わせの場所に赴きます。

>>>>>>
「宏子さん!」
 私は思わず叫んだが、彼女はまるで能面のように表情を変えず、じっと腰を下した
まま動こうともしないのだ。(中略)それまで見た宏子さんのどの顔よりも美しかっ
た。ブラウスとショートパンツがはち切れそうな宏子さんの容姿だった。(中略)
「手紙、読んだ?」
 (中略)私の体に宏子さんが飛び降りてきた。彼女の重い体が思いっきり私を平伏
させた。(中略)仰向けに倒れた私の胸に馬乗りに跨って彼女ははじめて私に微笑み
かけた。(中略)
「いい?わたしはこれからペンテジレーアになるのよ。栄二くん、あなたはわたしを
捕えようとするアテネの騎士」(中略)
「わたしに、こんなに簡単に組み敷かれて、それでも男なの?」(中略)
「でも、宏子さんが、いきなりとびかかってきたんじゃないか」
「ふふ・・ハンディがついてるってのね。じゃあいいわ」
 宏子さんは私を組み敷くのを止めて、すっくと立ち上がった。私も立って宏子さん
と相対した。
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 私は必死で戦い、少しは宏子さんを苦しめますが、少しずつ追い込まれて行きます。

>>>>>>
 (中略)これ以外にない、そう思って全体力をかけて彼女を押した。そのとき、思
いもかけず、彼女の体はすうっと私を引っぱり込み、次の瞬間には、私の体はきれい
な巴投げを食って一回転し、どうと地面にたたきつけられた。体中にじーんと激しい
痛みが通った。その苦しみといったらなかった。(中略)もう完全に宏子さんのペー
スだった。たった一回の巴投げが宏子さんの有利を保証してしまったのだ。
「さあ、苦しかったら、はね返してごらんなさい。」
 言いながら彼女は私の背にどっかと跨がり右手で私の首筋をとり押え、左手で私の
左手首をとってぎゅうと捻じ上げるのだ。(中略)何しろあの強大な体に乗っかられ
ては、私としてもどうすることもできなかった。(中略)彼女は、今度はがばっと身
を倒して、(中略)腕を背後から私の首に巻きつけ、右手で私の右手首をとり、横体
になって両の太股で私の胴を締め付け初め{ママ}たのだ。(中略)
「さあどうなの、私の強さを少しは思い知った?」
 (中略)私の気持ちに関わりなく、彼女は次の攻めを用意していた。
 彼女はいきなりすっくと立ち上ると、その足で俯伏せになっている私をぐっと仰向
けにさせた。白い運動靴とソックス、ブラウスにショートパンツの宏子さんの体が、
どうしても抜き難い厚い壁のようにも思われ、その体躯に私はあの底のない憧れとい
ま芽生えた、敵愾心を伴った憎しみを感じた。(中略)
「もうのびちまったの?そんなことじゃ、アマゾンの女王の相手の資格がないわよ」
「そんなこと、最初から宏子さんは知ってたんだろう」(中略)
「ふっふっふ、最初から知っていたって?そんなこと問題じゃないわよ。栄二くん、
あなたが、そんなに弱いのなら、私、あなたを鍛えてあげてよ」
「鍛える?」
「そうよ、アマゾンの女王は強い青年を望むのよ」
 彼女は倒れた私の胸ぐらを掴んでぐいと引き寄せたので、私の体は軽々と立たされ
た。そして、(中略)こんなことを言うのだ。
「いい?私がこんなことをするのは、あなたが初めてじゃないの。でも今はあなただ
け。だから私がどうやって男性を支配するか教えてあげるわ。そうすればあなたも私
の手の内が分って抵抗のしがいがあるってものね。全部教えてあげるわ。でもそれは
今日じゃないの、あさって、あさって私の家に来てちょうだい。(中略)」
 彼女は私の体をぐいっと押しながら足をかけて、そのまま私をゆっくりと押し倒し
胸板に馬のりに跨がり両膝で私の両腕を組み敷いてしまった。(中略)
「私って、何て変な女なのかしら。こうしていつまでもいたいのよ。そうやってあな
たが苦しそうな顔をしていると、あなたを締め殺したいとさえ思うわ」
「ぼくは苦しい。でも、ぼくだって、ぼくだって、いつまでもこうされていたい・・」
 腰に手をあてがい、私を見下す宏子さんを私は、太陽のように仰ぎ見た。
 (中略)やがて純白のショートパンツは私の顔面を覆った。それは胸乗りよりも、
首乗りよりも苦しかった。私の鼻と口はあの盤石のような、やわらかい臀部に圧迫さ
れて、息づくこともできず、ましてや声を発して、許しを乞うなど不可能であった。
(中略)私と宏子さんはそうしたまま動かなかった。
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 翌日、母の具合が急変し、私は、宏子さんと会うこともなく、そこを去り、二度と
会うことはかなわなかった、と、記されています。

 あまりにも、出来過ぎの感はしますが・・。
 この体験記に狂喜したのが、あの田代俊夫(MXその3参照)でした。
 彼は、「蚯蚓のたわごと」という手記を寄せ、栄二にエールを送り、自らの性癖を
告白します(勿論、格闘M)。
 そして、これが、あの名作「薔薇と蜜蜂」に繋がって行きます。

 私自身、こうして拙い随筆や小説を著しているのは、何れの日か、そうした私の作
品に触発されたという、第二の「薔薇と蜜蜂」が読みたいから、に、他ありません。
 気長にお待ちしております。(笑)

>>読んでみたい人へ
 「風俗資料館」がお勧めです。
 「MX11」に書いた救済措置も、未だ継続中です。趣旨をご理解の上、メール下
さい。

>>訂正
 田沼醜男が「風俗奇譚」に掲載したミックスファイトという表記が、「MX11」
にありましたが、これは、「SMマガジン」の誤りでした。

 とりあえず、長々と続きました奇譚クラブ誌からのご紹介は、一旦終わりにします。
が、また、食指をそそられるようなモノがありましたら、随時ご紹介します。
 次回からしばらくは、奇ク以外の風俗雑誌からの、格闘M作品を、ご紹介する予定
でいます。

 その12は、「奇譚クラブ短編集C」でした。

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