MIX FIGHT今昔物語
Text by UU
その9「A夫vsB子(奇譚クラブ短編集@〜馬場好男)」

 さて、最近某氏から、「昔の奇譚クラブには、(今と違って)随分、格闘Mモノが
あったのですね」という驚きのメールを頂きました。
 そう言えば、その通りです。今までに紹介したモノの他にも、珠玉の格闘M作品が
結構あります。
 これは今と違って、Mというモノが、未だ具体的にどういうものか、わからなかっ
た、ということも、まぁある、とは、思うのですけどね。それ以上に、編集子の人に
好きな人がいたようですよ。(笑)
 
 今回は、珠玉の格闘モノ短編集から、私のお気に入りの一編を、ご紹介しましょう。
 
 馬場好男は、1958年から、70年代に渡り、長く、奇ク誌上で活躍しました。
作品は、「マゾヒズム天国」「私のマゾ雑記帳」などがありますが、共に、シリーズ
で、エッセイが中心でした。
 特に、女性に馬乗りにされる、ということに快感を感じるタイプで、完全な格闘派
ではないのですが、この1958年頃に発表された「第二十九集 私は私の馬乗考」
は、名作ですので、特にご紹介します。
 
>>>>>
 第二十九章 私は私の馬乗考
 (中略)
 A夫とB子はとり組み合ったまま、どっと砂上に倒れて争った。−−が勝敗は、か
んたんに決まった。B子がさっと起き上がったとみる間もなく、砂の上に俯伏せに組
みしかれたのはA夫だった。片頬を砂に埋めたA夫の背中に、どっかと馬乗りなった
B子は、もがくA夫の両手を膝でふみしき、両手で上からA夫の首筋をしっかとおさ
えて、もう身動きもさせない。A夫は、それでもはね返そうとバタバタと両足をふん
ばっては砂を蹴ったが、B子は盤石の様におさえつけて、もがくたびに自分の身体は
砂の中にめり込んでしまうのだ。砂が口の中に入り、それを吐き出そうとして眼にと
び込んでくる。頭をあげようとしても首すじをおさえられて動かせない。ううと思わ
ずうめくと、
「どうだ、降参か」
B子は勝ち誇った声をあげる。
「ううん、まだ」
と目をあけると、口はキリッと結んでいるが、眼は笑っているB子の美しい顔が自分
を見下している。
「ふふふ、強情ね。降参しないと、ひどい目にあわすわよ」
「ええい」
「ダメダメ、もがいたって駄目よ。さお、どう?」
B子の身体は、ぐいと上の方にずり出してますます強く圧力をかける。
「むむむ」
A夫は顔を砂の中におしつけられ、わずかに顔をそむけて息をつく。両手を動かそう
にも、B子の脚におさえつけられて、どうにもならない。
「さあ、どうするのよ。降参しないと人が来てからでは許さないから」
A夫は口や鼻に入ってくる砂を、首を僅かに動かしてよけていたが、もう動けなく、
それに呼吸もろくに出来なくなって、とうとう悲鳴をあげてしまった。
「降参、降参する、降参する」
「ほほほ、遂に降伏したわね。じゃ許してあげる。だけど、すぐは許さないわよ」
B子は、笑い乍らA夫の手をふみしく事をやめた。
「ふうふう、ああ苦しかった」
A夫は大げさに、俯伏せのまま、一寸顔をあげて大きく呼吸をした。
「ほほほ、早く降参しないからよ。さあ、今度は捕虜のお仕置きよ」
「え?まだかい。もう許してくれよ」
B子は身体をうかせて、不服顔のA夫を強引に仰向かせると、
「すぐ降参しない罰よ」
と笑い乍ら今度は胸の上に跨って再び膝でAの両手をふみしいた。
「ううん、く、くるしいよ」
「当たり前よ。私だって、五十二キロはあるのよ」
「く、くるしいよ。降参したんだから、もう許してくれよ。ね、B子さん」
「ふふふ、嫌よ、許さない」
「ね、人が来たら困るよ。お願いだ。もう降参したよ」
「とうとう無条件降伏ね。いいわ、勘忍してあげる。その代わりA夫さんは私のドレ
イよ。云う事は何でも聞いて、此の女王様に奉仕するのよ。いいわね」
「ウン、判った。B子さんのドレイになる」
「じゃ、許してあげる」
B子は、ようやくA夫の上から立上がろうとした時、A夫が突然、がばっと起き上が
り乍ら、B子の足をすくおうとしたのだ。
「アッ」B子は声をあげるや、危うく倒れそうになるのを支え乍ら、A夫の首っ玉を
しっかとつかまえた。
「やったわね。ずるいわよ」
はね返しそこねたA夫は又々、砂上に俯伏せに、今度は左手を逆に後手にねじあげら
れて組みしかれた。
「痛い! ウデが折れる」
「何よッ、反乱の罪は重いのよ。さァ、どうだ。これでもか、これでもか」
「アッ、イタ、手が折れるよッ。テ、テが」
 泣き出しそうなA夫の悲鳴にかまわず、ぐいぐいと手をねじりあげる。さあ、これ
からどんな折かんが始まるのやら−−。
>>>>>
 
 てなところで・・。(笑)
 しかし、A夫にB子、ですからねぇ・・。(汗)
 もう少し、ましなネーミングはなかったものか、と。思わないでもないですが・・。
 ま、昔は、これでも充分に興奮できました。 
 漢字表記とも、原文のままです。
 
>>読んでみたい人へ
 先日、渋谷の本屋で奇クを扱っている、というので、少し覗いて見ましたが、まぁ
とんでもない値段が着いてますね(大汗)。あんな値段なら、私の持っているのを、
売りに行きたいくらいです。
 いまや、「風俗資料館」しか、考えられなくなりました。ぜひ、ご利用下さい。
 馬場好男の作品は、
 奇譚クラブ昭和33年7月号以降、一時期の中断をはさむものの、ほとんどの号
に掲載されています。
 
 その九は、「奇ク短編集@馬場好男特集」でした。
 
(本文中敬称略)


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