MIX FIGHT今昔物語
Text by UU
その7「絹子VS捨吉(夏木青嵐特集)」

 さて、今回は、私が最も愛する作家、夏木青嵐の特集をお届けします。
 あの沼正三も、「私と好みが似ていて好きな作家」と書いていますが、実際その貴
婦人崇拝趣味は、毳々しいばかりで、(今となっては)ちと鼻につきます(汗)。
 それはともかく・・。彼の描くドミナたちは、みな優雅で上品で、美しく。そして、
男を徹底的に虐待し、懲罰を加えます。その虐待ぶりは、またひどく男性的で、豪快
ですらあります。この辺のギャップが、ファンにはたまらないところです・・。
 基本的には、彼は、自分の小説のことを「MF小説」と書いていたように、フェチ
もかなり入っており、格闘Mっぽいところは決して多くはないのですが、時に、彼の
描く美しいドミナたちは、その白いこぶしで、男をぶちのめし、竹刀や、野球のバッ
トで、彼らを「はんぺん」にします。そこんところが、格闘Mとしての私を、ひどく
刺激しましたので、ここでご紹介します。
 
 夏木青嵐は1973年頃から、1975年まで性風俗誌「風俗奇譚」「SMファン
タジア」などに、貴婦人趣味の、更には「下格の男がパンティを盗んで見つかり、上
格の女に懲罰として撲られる」といったM小説を、次々に発表しました。
 彼の代表作は、何と言っても、未完に終わった「大女権帝国シリーズ」ですが、と
もかく女性が偉くなってしまって、男たちは、虫けらのごとく扱われる、っていうテ
ーマが、彼の真骨頂でした。
 
 その中で、格闘Mっぽいものを何編か、ご紹介します。
 「下着泥御用」は、風俗奇譚に昭和49年(1974)に上下に分けて、掲載され
ました。女子寮の下着泥捨吉を、取り押さえたのは、名門女子大生の美女たち五人。
 北陸出身の大臣令嬢、キングサイズの肉体と首席の頭脳の持ち主、京子様。
 ミスR女子大の日本美人、恵美様。
 柔道黒帯のグラマー美女、絹子様。
 テニス部のキャプテンの快活な脚線美人、みどり様。
 和服姿の文学少女にして才女の、桜子様。
 の、お歴々です。(笑)
 警察行きを勘弁してやる代わりに、折檻を加えようと、捨吉(わたくし)に柔道着
を着せ、道場に連れ込みます。まずは、絹子様の登場です。
 
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 愛用の柔道衣に黒帯をきりりとしめると、絹子様のお姿は、見るからに鋭気さっそ
うたる感じになります。(中略)
 ほかの四人のお嬢様がたが、めいめいの位置に折りたたみイスを置かれて、見物役
にまわりますと、美しくたくましい絹子様は、道場の中央に両足を開いた仁王立ちの
厳然たるご姿勢で、
「さ、全力をあげて、むかっていらっしゃい。どんな手を使って抵抗してもいいわよ」
 と、わたくしを促しました。(中略)
 絹子様の柔道のお腕前は、さきほどの巌石落としが、まだわたくしの体のふじぶし
に痛みになって残っているくらいですから、わたくしには、骨身にしみてよくわかっ
ております。
「さ、いらっしゃい。もんであげる」
 絹子様にもう一度促されると、わたくしはもう、彼女のお腕前が恐ろしくて恐ろし
くて、立っている気力も失ってしまいました。
 わたくしは、男の身として恥ずかしくはございますが、もう全くこらえ性をなくし
て、その場でへたへたと鏡板の上にすわり込んでしまいました。「しょうがない子ね」
と絹子様は苦笑なさいましたが、京子様とみどり様がたまりかねて立ってわたくしに
近寄っていらっしゃいました。
「なあに、そのざまは。ちゃんと立って、絹子さんのお相手をなさいっ。それでも男
なのっ」(中略)
 絹子様がわたくしの間近にまで歩み寄って、わたくしのはるか頭上で含み笑いをし
ておられます。やがて、
「じゃ、みどりさん、いいわね」(中略)
「起きるのよっ」
 みどり様に、首すじをつかまれ、京子様のお手伝いで、わたくしは、ネコの子を吊
るし上げるようにぐいっと宙に吊るし上げられました。
「お許し下さいませ」
 わたくしの言葉は、みなまで言わせてもらえませんでした。
 絹子様の白い両手が、ぱっとわたくしのえりにかかりました。絹子様のかぐわしい
お肌のにおいが、ぐっと近ずきました。
 次の瞬間、わたくしは、強烈な足払いをかけられました。
「えいっ」
 のりりしい絹子様の気合いと同時に、わたくしの体は、まるでピンポン球のように
横っとびに、かっとばされていたのでした。
 堅い道場の羽目板が、うなりを生じてわたくしめがけてふっとんでまいりました。
 大丸木で思い切りぶんなぐられたようなひどい衝撃でございました。
「一本っ」
 みどり様のお声が遠くでひびきました。
 (中略)、また、絹子様が容赦なく引き起こしました。
「手加減してあげてるのよ。K館女子部のお稽古は、こんな甘っちょろいものじゃな
いのよっ」
 手荒く引き起こされて、また「やっ」と絹子様の気合い。今度は一本背負いでした。
 (中略)鏡板に、全身がきなくさくなるほど、たたきつけられて、(中略)、いや
というほど羽目板に激突しました。
 瞬間、意識を失いかけましたが、すぐさま、また絹子様に乱暴に引き起こされます。
「まだ、まだっ」
 絹子様は例によって息づかいひとつ乱さず、お声には笑いさえも含んでおられます。
 次は、絹子様のお体が、わたくしのえりもとをつかんだまま、軽快に鏡板に倒れ、
わたくしの体は、ぶうんとうなりを生じて、その上をまりのようにとび越し、またし
ても羽目板にがぁんと、今度は頭から突撃でした。
「今度のは少しはききがよかったかしら」
 頭を砕かれるようなひどい衝撃でしたが、絹子様のお考えでは、少しはきいたかぐ
らいらしいのでした。
 わたくしは顔じゅう涙だらけにして泣きました。(中略)
「みどり、ちょっと早いかも知れないけれど、そろそろ落としてやったら」
 絹子様がおっしゃると、
「絞めるのまだちょっと早いみたいねぇ。でも、えい、いっちょうやるか」
 みどり様の声が応じました。(中略)
 うつむけに倒れているわたくしの背に、みどり様の柔らかいお胸の感触がきて、
(中略)
 そのまま、逆十字の絞め業の体勢にはいります。たちまち、わたくしの呼吸はぴた
りととめられてしまいました。(中略)
 苦しい。ああ、苦しい。
 わたくしは、みどり様の盤石の押さえ込みの下で、物狂おしくもがきました。
 みどり様の絞め技は、ぐぐうっと、一気にしぼってくるかと思うと、また、ふっと
ゆるみます。
「ああうっ」
 身をもんで、わたくしがもだえ泣くと、すぐまた、ぐぐうっとしぼり上げてきます。
 ネコがネズミをなぶっているやり方でした。(中略)
「まだよ、まだ、まだよう」(中略)
 ああ、みどり様に落とされるうっ。
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 で、絞め落とされた後は、正気に戻るように、今度は往復びんたです。「おびんた」
などと云います。
 絹子様に両腕を背にねじ上げられ、正座をさせられている姿勢で、まず京子様から、
15、6往復の強烈な往復びんたです。続いて、日本美人の恵美様の往復びんた。
「なあに。このくらいのおびんたでふらふらして」などと気合いを入れられながら、
強烈な懲戒が続きます。
 更に、みどり様による「おみ足びんた」です。「わたくし」は、両頬におみ足びん
たを数発くらい、前歯をたたき折られ、鼻からも口からも血を吹いて、昏倒します。
 まだまだ終わりません。「わたくし」は、また絹子様の活で蘇生させられ、素っ裸
にされ、両手を頭上にくくられて、道場の梁から吊り下げられます。
 今度は、桜子様による野球のバットを使っての尻打ち「バッター」です。7,8打
で京子様に交代。京子様より更に、10打近く裸の尻にバッターをちょうだいして、
ついに、完全に失神します。
 出来心から下着を盗んだために、5人の美しい女子大生に文字通り袋叩きにされ、
半殺しの「はんぺん」にされます。
 なんともはや、羨ましいことで・・。(笑)
 
 格闘ではありませんが、こぶし打ちがある、っていうのも、夏木青嵐の特徴です。
 次は「女権国家の男囚たち」(SMファンタジア昭和49年)からの、ご紹介です。
女性に対する不心得者などが、収監されている監獄の囚人どもを律するのは、美しい
女性監視官です。作業の遅れたのろまな男囚が、女性監視官にみっちりとヤキを入れ
られます。
 
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 彼は、三十三、四のやせぎずの男だった。
 ヤキを入れた監視官は、大谷節子という女性で、二十四歳だった。女子短大生時代、
ボクシングの練習をやったことがあるという話で、彼女は、懲戒のとき鞭を使わず、
白いこぶしで囚人をなぐり倒すので有名だった。
 (中略)、節子監視官は、(中略)、目はぱっちりとして鈴をはったようで、鼻筋
は細くとおり、唇は花のつぼみのように美しかった。(中略)
 列外に直立し、節子監視官に美しい目でにらみつけられると、遅れ男は、さながら、
嵐の中のアシのように、わなわなとふるえた。
「足を踏んばれ。歯をしっかりとくいしばれっ」
 これは、ぶんなぐられてふっとんだり、舌をかんだりしないための、彼女の親心か
ら出た命令だった。(中略)
 食いしばるべき歯の根も合わず、彼はかすれ声で、この美しい節子先生に哀願した。
 (中略)
 甘ったれるんじゃないっ、と、彼女に一喝され、男囚の哀願は、型どおり一蹴され
た。
 があん。があん。
 白いこぶしが、すごい音をたてて、彼の両頬に炸裂した。
 がん、がん、がん、がん。
 たちまち、彼は、口から鼻から血しぶきをふいてよろめいた。
 濃い暮色の中に、なぐり続けている節子監視官の顔がユウガオの花のようにほの白
かった。(中略)
 節子監視官のパンチは、実際、つらい苦しいの段ではなかった。
 すでに五往復くらいなぐられている男が、ふらつきながらも、必死にまだ地上に足
を踏んばって立っているのが不思議だった。が、ノック・アウトは誰の目にも、時間
の問題になっていた。
 (中略)節子監視官のすごいパンチで、彼が列外から列に向かってふっとんできた
のだった。さながら天を仰ぐように顔を空に向け、彼は背中からどっと列内へ倒れ込
んできたのである。
 彼女から、よっぽど利きのいいパンチをもらったにちがいない。彼は、二列の人が
きを貫いて、反対側の地上に、棒を倒したようにころがっていた。
 (中略)彼は、地上に倒れたそのままの姿で、激しく泣いた。
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 続いて、「係長エレジー」(風俗奇譚昭和49年)。エリートから転落し、禁欲生
活を強いられたため、後輩で今は上司の太田の妻、律子のパンティをなめているとこ
ろを見つけられてしまった「オレ」。
 しかも、今の彼女は上役の妻でも、元は「オレ」の婚約者。「オレ」の捨てた女で
あった。社内で、絶対的な権力をふるう専務夫人恵美子に命令され、彼女の元に謝罪
に訪れた「オレ」は、律子のKOパンチをしこたま浴びる。
 
>>>>>
 オレはさっそく、洗い場の柱に、直立させられ麻縄でぎりぎり縛りつけられてしま
った。
 やがて、グローブが、律子夫人の白い両手のこぶしにはめられた。それからパンチ
をうつ練習だった。
 (中略)、律子夫人は、美しい顔にうっすらと練習のあとの汗をうかべて、縛られ
ているオレの前にやってきた。
 太田は、おもしろそうに、見物にまわった。
 (中略)、律子夫人のグローブのこぶしが、矢のような早さでオレの鼻柱へがんと
飛んできた。
 があんと、すごい衝撃で、オレは目がくらんだ。
「次はストレート」
 前よりいっそうすごい痛打がオレの顔面をがあんと襲ってきた。
「次はアッパーよ」(中略)
 三発目のアゴへの一撃で、オレはぐらっと意識がうすれた。(中略)
 がんと片頬へ、ハンマーでなぐられるような痛打がきた。
「わわわわ、ゆるして奥様」
「だめっ、しゃべると舌をかむわ。黙ってなぐられていなさいっ」
 がん、がん、がん、がん。
 痛烈な連打だった。
 連打がやむと、オレは、
「ひいっ」
 と泣いた。
 泣かないで、お澄ましの律子に、りっぱになぐられておいでと、恵美子夫人に堅く
命じられたことは、オレの念頭からすでにふっとんでしまっていた。
「今すぐ楽にしてあげるわ。だから泣いちゃダメ。すぐノックアウトしてあげるわよ」
 がん、がん、がん、がん。(中略)
 目からも口からも赤いしぶきをとばして、オレは痛烈になぐられていたのだが、も
うそのことさえもわからなくなっていた。(中略)
「さ、これが、あたくしのフィニッシュ・ブローよ。よくって」
 律子夫人の痛烈なアッパーが、があんとオレのアゴへ一発。
 その一発のアッパーで、オレはついにきれいに彼女にKOされ、何もわからなくな
ってしまった。
                                 >>>>>
 
 てなところで・・。(笑)
 
 以下に、夏木青嵐の主な作品とその内容についての紹介を載せておきます。
*風俗奇譚
「若奥様と男奴隷」上下〜昔プロポーズした女に下男として仕え、虐待される男。執
拗なこぶし打ちの折檻あり。 
「甘美な悪夢」〜貧乏な大学生が、有閑マダムのおもちゃになっていることを、同級
生でもあるその娘に見つかり、折檻される。スリッパでの頬打ち。
「美しい暴君」上下〜人身売買される男。
「下着泥御用」上下
「係長エレジー」1−5
「鞭うつ伯爵夫人」〜美しいジュリー夫人による徹底的な鞭うち。
「わが妻は美人なれど」〜偽装結婚させられた夫。見せかけの美しい妻による往復び
んたに晒される。
「白い火花」〜女のパンティを盗み、女主人の命により、彼女の家に謝罪に訪れた男。
彼女のこぶし打ちでふっとぶ。
*SMファンタジア
「女権国家の男囚たち」〜上記の他にも、竹刀で打ちのめされ、急所責めされ、苦痛
に呻吟する哀れな男囚たち。
「女権国家の軍隊」〜女性士官に責められる男性下士官。
「黄色奴隷」上下〜白人ドミナ崇拝。
「逃亡奴隷異聞」〜ジュリー夫人の元を逃げ出した奴隷が、人間便器にされる。
「香港帰りの鮎子」〜ヤクザの代貸しの情婦、鮎子が鞭をふるう。
「白と黒」〜珍しくアメリカの話。鞭うち。
「大女権帝国を想う」1−4〜やはり、女性士官に責められる囚人や、男性下士官。
ハイヒールびんたや、バッター。ファンタジア廃刊のため、未完。
「マゾヒストとなるまで」〜ローヒールびんた。
*SMクラブ
「畜獣の甘美な戦き」〜「わが妻は・・」と同じ設定。残酷な鞭打刑に泣く男。この
作品は、スレイブ通信にも掲載されました。
「マゾヒストの日記」〜美しい有閑マダムの奴隷。
「痺楽者の痴宴」〜「甘美な悪夢」の番外編か・・。
 
 この他に、「風俗資料館」の資料によりますと、SMファンタジア増刊に、「激し
い恋」「紅ばらお銀」。アブハンターに、「恋とマゾの出発」。Sadism・Mに
「女権帝国の人間便器」などが、あるようです。(未確認)
 
 同じ頃、風俗奇譚に書いていた紅隷児が、最近別の雑誌に書いていたエッセイによ
ると、夏木青嵐は、今もお元気なのだそうです。返す返すも、SMファンタジアの廃
刊が惜しまれますね。
 
 なにしろ好きなもので(汗)・・、長々とご紹介しました。
 随分以前になりますが、「風俗資料館」で、持っていない夏木青嵐の作品を片っ端
からコピーしていたら、膨大な量になってしまい、係の人がびっくりしてたことがあ
りました(汗)。「風俗資料館」の高倉館長は、風俗奇譚やSMファンタジアの最後
の編集長だった人ですが、「何を(そんなに沢山)コピーしたんですか?」と聞かれ、
さすがに言葉を濁したことがありました。・・そりゃねぇ。(笑)
 
>>読んでみたい人へ 
 古本屋をこつこつと回るか、上記の「風俗資料館」に行くぐらいしか手はありませ
ん。やはりお勧めは、「風俗資料館」ですね。「MX今昔のその三」にインターネッ
トのアドレスが載ってますから、一度、アクセスして、お問い合わせ下さい。
 
 その七は、「夏木青嵐特集」でした。
 
(本文中敬称略)
 

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