新・第三次性徴世界シリーズ・2
ラブホテル13号室の巻・2
笛地静恵
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3・ラブホテル13号室
 悪夢を見ていた。かつての指導教官であった女性教授の白い裸体が、全裸で闇の中に、
蠢いていた。下半身は蛇になっていた。彼女は、研究室で、ぼくの身体を、いつもねっと
りと絡み付くような、熱い瞳でみていた。成人女性だから、男性の三倍はある巨体だった。
彼女の淫らな視線には、気が付いていた。若くてきれいな男子学生を、次々と毒牙にかけ
るという悪い噂は、耳に入っていた。できるだけ、二人きりにならないように、注意はし
ていた。しかし、博士論文の推薦状の問題で、ある日、ある山の手のホテルに、単身で呼
び出された。内密の話があるということだった。魂胆は、分かっていたが、ぼくは、出掛
けていった。心は決まっていた。
 その夜、四十七歳の成熟した巨大な女体が、ぼくを翻弄した。その晩のことは、ほとん
ど覚えていない。それで、良かったと思っている。あの時は、ホテルのバーで、彼女が勧
める二十世紀産の高価なワインを、水のようにがぶ飲みしてやったのだった。白い乳房の
上に、すべてを吐いてやった。ひどく叱られた。自分の排泄物を喰わされた。全裸で、膝
の上に俯せにされた。赤子のように、尻を何度も何度も、巨大な手で折檻された。申しま
せんと、本気で子どものように泣きじゃくって謝罪するまで、やめてもらえなかった。尻
は鬱血して、猿のように真っ赤になっていた。翌日になっても、椅子に座れない程だった。
赤と青の痣が出来ていた。睾丸も殴られたのだと思う。片方が、野球のボール大に腫れ上
がっていた。巨大な掌で、顔を殴られた記憶もある。男の顔面に、騎乗された。女の尻の
下で、窒息の一歩手前までいった。奥歯が折れていた。一週間、口の中からチーズの臭い
が消えなかった。下の口で顔面を喰われて、膣の筋肉で締め付けられたせいである。拷問
だった。よく生きていたものである。
 それでも、ぼくは、二十代の異例の若さで、助教授に推薦された。それまでに、彼女の
友人という、大学のばあさん連中を、三人ほど相手させられたが。ぼくは、断らなかった。
だから、ばあさんの愛液で、ぼくは汚れているのだった。
 汚い大人のひとりだった。
 彼氏なんてとんでもない。
 まり亞、君は、ぼくのようになってはだめだぜ。
 そう、何度も何度も説教してやっていた。
 しかし、まり亞は、ヒトの顔をした子牛を、尻から貪り食っていた。悪夢だった。悲鳴
を上げて目を覚ました。
 自分が、どこにいるのか分からなかった。まったく見覚えのない天井だった。朧なシャ
ンデリアがあった。自分の部屋ではないことは分かった。
 ここは、どこだろうか。起き上がろうとすると、頭の芯を激痛が貫いた。柔らかい枕に、
またもたれ掛かった。
「先生、だいじょうぶですか?」
 まり亞の心配そうな大きな顔が、満月のようにぼくを見下ろしていた。
 ぼくは、山田まり亞の膝の上に、上半身を寄り掛かけて座っていた。額に冷たいタオル
が、貼りついていた。
 気味の悪い油のような寝汗で、額に張りつく髪を、まり亞が指でかきあげてくれた。
 驚いた。もう一度、起き上がろうとした。頭が割れるように痛んだ。
「先生、寝ていた方がいいですよ」
 彼女は、低い声で囁いていた。ぼくは、泥酔して、ひどいありさまだったらしい。彼女
に抱かれるようにして、ここに来たらしい。
 「ホテル・リスベート」という場所だという。看板の名前は、いつかどこかで見た記憶
があった。13号室にいるのだという。
 これが、ノイエ・シブヤのもうひとつの顔だった。若い女性の集まる街には、男も寄っ
てくる。花の蜜に吸い寄せられる虫のように。
 街の周辺は、男女の欲望が渦巻く、歓楽街になっていた。男が女を買い、女が男を買っ
た。ラブホテルも何件も並んでいた。噂では、第三次性徴に入っていない十代になるかな
らないかの美しい少女を、海外の発展途上国から、金の力で連れてくる組織が存在すると
いう。金持ちの男に、初花を食わせる。大金を要求する場所もあるという話だった。都市
伝説かもしれない。出来すぎた話だった。
 ぼくは、冷たい水を所望した。彼女は、ルームサービスで、氷とミネラル・ウォーター
を取り寄せると、それでおいしい水を作ってくれた。ごくごくと喉を鳴らして飲むと、よ
うやく頭が動き始めた。
 背広もネクタイも脱がされていた。クローゼットの方に、片付けてあるという。貴重品
のたぐいは、枕元の木の格子細工の箱に入れてあった。何も手が付けられていなかった。
 ぼくは、失態を詫びた。
 まり亞は、なんだか唇に、妙な笑みを浮かべていた。嬉しそうな顔だった。酔っ払いの
世話が、そんなに楽しいのだろうか。
 彼女は、セーラー服を、着たままだった。表情から、緊張しているのがわかった。
 ぼくは、これからどうしようかと思っていた。時計を見ると、もうすぐ深夜だった。彼
女を家まで、送り届けなければならなかった。しかし、そのためには、このひどい酔いを、
覚まさなければならなかった。ぬるい温度で、浴槽に湯を満たしてくれるように頼んだ。
 もう入っているという答えだった。
 彼女の手に支えられるようにして、風呂に入った。ジャグジーは、泡立ちながら、新鮮
な湯を吹き上げていた。
 男性ならば、五、六人が、一度に入浴できる大風呂の広さがあった。
 凄い部屋だった。風呂場に、滑り台があった。女性も使用できるようになっている。十
メートル以上ぐらいの高さの場所から、回転しながら、下降できるようになっていた。男
性用のビルとしては、四階建てぐらいの高さになるだろうか。まり亞は、それを見て歓声
を上げていた。遊んでみたいのだろうなと思った。
 彼女が、バスルームを出たのを見はからってから、脱衣した。ジャグジーの中に入って
いると、泡と湯の中に、体内の酔いが洗い流されていくような気がした。その中に、長い
時間、惚けたようになって、身を浸していた。
 ふと壁を見て気が付いた。まり亞のいるベッドのある部屋との間の壁は、総ガラス張り
だった。彼女は、反対側の窓の方を向いて座っている。部屋のテレビも付けずに、静かに
座っていた。俯いている。文庫本の『満ち潮』を読んでいるのかもしれない。身体の影に
なって、何をしているのかは分からなかった。
 一緒にバスに入らないかと、誘いたい気持ちを、ぐっと堪えていた。
 自分の半分の悪魔が囁いた。
 緊急事態だったとはいえ、ラブホテルまで、付き合ってくれたのだ。彼女にも、ある種
の期待があればこそだろう。
 自分の半分の天使が言った。
 しかし、それは単純に、本とスキヤキへの好意の一表現に、すぎないのかもしれなかっ
た。彼女に嫌われることだけはしたくないだろう。クリスマスの一夜の幸運としては、こ
れでも十分すぎるだろう。
 悪魔と天使はなおも論争していた。
 無宗教のぼくだが、神様に感謝する心境になっていた。
 この次もあるような気がした。彼女は、ぼくの蔵書に強い興味を持っていたのだった。
それを餌に、また誘い出すのは、簡単そうだった。
 それでも、ジャグジーの湯の中で、包茎の皮を向いて(現代の日本人男性の三人に一人
は、仮性包茎だった)、中の汚れをきれいに洗ったのは、これからの下心の現れだった。す
けべ心は、健在だった。シャワーの水流で、口の中を洗い流したのも、キスのための準備
だった。
 バスルームの中で、パンツとズボンと下着を身につけた。
 部屋に出ていった。まり亞が、窓の方を眺めていたことに気が付いた。カーテンがかす
かに開いていて、そこから白いものが舞っているのが見えていた。窓の枠にも白いものが
積もっていた。本格的に降ってきたのだった。早く帰りたくて、不安になっているのだろ
う。
 彼女の座っているベッドの脇に、飛び乗った。脇にいるだけで、若い肉体からの体温の
放熱を感じた。
 さっき道元坂を、歓楽街の方に下りてくるときもそうだった。
 彼女は、この時代の教育を受けている少女の自然な行動として、車道の側を歩いていた。
強い女性は、危険から弱い男性を守らなければならないというのが、基本的な道徳だった。
歩く速さも、ぼくの歩幅に合わしてくれていた。まり亞にとっては、蟻の這うようにじれ
ったいことだったろう。それを、素直に実行している。そうしていると、風がさえぎられ
ていた。紺色のセーラー服の三メートル以上の少女の身体は、幅も厚みもある。移動する
風よけになってくれていた。ぼくは、ぬくもりを感じていた。気持ちの問題ではない。現
実に空気が暖かかった。少女の体温だということが分かった。こんな風に若い女の子と歩
くことなど、最近は、ついぞなかったことに気が付いた。研究室にこもりっきりだった。
いろいろな意味で、不健康な自分がいた。
 まり亞の顔の方を見上げないで、正面の窓を見つめたままでいった。
「まり亞、今日はありがとう。酔っ払っちゃってごめん。タクシーで家に……」
 送ろうという、ぼくの言葉を彼女が遮った。
「帰らなくていいんです」
 強い口調だった。
「家に帰っても、誰もいません」
 さっきも、そう言っていた。
「あたし、先生と、もう少し、いっしょにいては、迷惑でしょうか?」
 激しい詰問のような言葉だった。
 その時になって、ぼくは、ようやく彼女の顔を見上げることができた。顎の先端に、大
きな水の粒が垂れていた。頬にも涙の筋がいくつもついて、光っていた。大きな黒い瞳か
ら、涙が溢れていた。何を泣いているのか、分からなかった。失礼なことをしたのだろう
か。
 これから、車で、家まで送るからと話そうとしただけだった。しかし、理由はすぐに分
かった。まり亞の方が、先に口を開いていた。ゆらりと立ち上がった。大股の一歩で、ぼ
くの眼前に聳えたっていた。三メートルの高所から、濡れた目で見下ろしていた。
「先生、ごめんなさい。あたし。我慢できないみたいです。悪い子だと軽蔑されてもいい
です」
 彼女は、ぼくの前の床に片膝で座った。床が、体重にずしんと振動していた。それでも、
頭一つ分大きかった。ぼくは、凍り付いたように動けなかった。ベッドの脇に座ったまま
でいた。
 教官に強姦された夜から、本当に女性恐怖症になっているようだった。激しく迫られる
と、身体が動かなくなる。何かをしなければならなかったのだが、何をしたら良いのか分
からなかった。今も、そうだった。まり亞の手が、ぼくの身体の周りを舞った。そして、
来たばかりの服が脱がされていった。着せ替え人形になった気分だった。
「先生、可哀相。とっても、恐い思いをしたんですよね。あたしが、優しくしてあげます」
 そうなのかと思った。ぼくは酔って、初対面の小娘に、何を告白してしまったのだろう
か。彼女は、ぼくを癒そうとしてくれているのだった。冷静な頭の一部の悪魔が、チャン
スだと囁いていた。いつまでも、心の傷を背負っていても、仕方がない。若い肉体で、そ
れを癒すことだ。天使もそう言っていた。まり亞を着せ替え人形にしちまえ。彼女ならば、
そうしてくれるさ。
 何かを質問しようとしても、口が開かなかった。視線も、まり亞の白いブラウスの胸元
から、離せなくなっていた。同じ高さなのである。まり亞は、今日の長い一日を朝から着
ていて、汗の滲んだようなブラウスのボタンを、すでに上から三つ目まで外していた。紺
色のスポーツブラが、はっきりと覗けた。
「先生、あたしも、恐いんですよ。その証拠に、心臓が、どきどきしてます。触ってみて
ください」
 右手の手首を、万力のような指の力に捕まれていた。ぐいっと前に身体全体が泳いだ。
引っ張られていた。熱いブラウスの中に、導かれていた。左の乳房に触れていた。ブラジ
ャーの上から、若い命の根源の太鼓が、健康に鼓動するのを感じていた。皮膚は汗にしっ
とりと湿っていた。指の腹が吸い付くようだった。
 何よりもぼくを安堵させたのが、まり亞の身体が、小刻みに震えていることだった。天
使が諭すように武者震いだったのかもしれないが、その時は悪魔の不安の表現だという観
察を信じた。緊張しているのである。主導権を取り戻すための自信を与えられていた。
 ぼくは、まり亞の太い首に抱きつくようにした。幼児が、母に甘えているような態勢だ
ったが、仕方がなかった。まり亞の唇は堅かった。鍵がかかっているように、真一文字に
引き結ばれていた。その上に、情熱的なキスの雨を降らせていった。やがて、堅い花びら
が、開いた。まり亞の吐息が、ぼくの顔にかかった。ぼくは、花びらの間に、舌を挿入し
ていった。少女の唇と前歯と唾液を舐めていた。彼女の厚い大きな舌を甘噛みしてやった。
それが、まり亞の官能に火を付けていく火口の役をした。舌が、縦横無尽にぼくの口の中
を侵略してきた。抵抗は無意味だった。
 いつか、ぼくは、まり亞のスポーツブラの胸に、顔を埋めていた。ブラウスは彼女が脱
いでいたのだろう。塩味のする滑らかな広い肌色の台地を、舐め回していた。胴体全体に、
背中まで手を回して、抱き締めてやることは、ぼくの腕の長さにあまった。しかし、スポ
ーツブラ自体を、まり亞が乳房の上にずらしてくれていた。大きくて堅く熟した、メロン
大の肉の果実を、両手に挟んでいた。肉の重さを感じた。乳房を揉み解してやっていた。
表面はしっとりとして柔らかいのに、内部の乳腺の部分は、堅くて、ぼくの握力ぐらいで
は、いくら両手に力を入れても、形を変化させることは不可能だった。形状記憶合金のよ
うだった。血の流れる柔らかい鋼鉄と呼べば、実感に近いだろうか。頑健に指に抵抗して
きた。それでも、乳首をひっぱったり、つねっったり回転させたりしていた。もちろん全
体に、唾液の後を、かたつむりの這った後のように残していた。
 乳首の直径は、ぼくの親指ぐらいあった。勃起した男性のペニスと同じような硬度があ
った。それは、ぼくが口に含んだのか、それともまり亞が、挿入して来たのだろうか。そ
れを舌で愛撫していた。周囲の広い乳暈の上に、回転させていた。舐めて、しゃぶって、
啜っていた。ここも強く甘噛みしてやった。まり亞は、強い愛撫を好むようだった。作戦
は成功した。「ああ、ううむん」まり亞のうめき声が、ずずんと胴体を鳴動させて、響いて
いた。左右とも同じように入念に愛してやっていた。
 第三次性徴によって、みなが巨乳の持ち主に変身していく。乳首が、特に敏感な性感帯
で、彼女たち共通の弱点であることぐらいは、男性として勉強していた。
 快感に耐え切れずに、まり亞が、カバーに包まれたままのベッドの上に倒れていった。
大木を倒した樵のように、充実した気分だった。大木の幹のような身体の上に乗っかって
いった。柔らかくもあり、剛くもある肉布団の上で、まり亞の唇を奪っていった。
 顎まで、ぼくの唾液まみれにしていた。やがて、激しく息を切らしている彼女の身体か
ら下りていった。乳房が、潜水した後の海女さんのように、上下動を繰り返していた。
 スカートは捲れ上がっていた。下着が顕になっていた。しかし、まだ、そこを征服にい
くのは、早いような気がした。まり亞は、両手を乳房の上に被せるようにして、荒い呼吸
をしていた。
 長い長い足を下って、ベッドの足元に回った。左足の爪先の方から、責めるつもりだっ
た。膝の下から、白いルーズソックスの布を脱がそうとしていた。最初は、なかなか、め
くれなかった。やがて、ぺりりと音がした。まり亞が少しだけ手を貸してくれたのだった。
後で聞くと、そっくタッチとか、なんとか言う、それ専用の接着剤で、ずり落ちないよう
に肌に這ってあるのだという。女の子のおしゃれも、いろいろと大変なのだった。
 まり亞の協力があって、ようやく片方だけ、脱がすことに成功したのは、五分間ぐらい
が、経過してからのことだった。どたんと横たわる生足を眺めながら、「大きな大根」とい
う、昔話を思い出していた。ぼくには、頼れる犬も猫もいないのだった。
 しかし、慣れているので、右足の方は意外に早く済んだ。爪先の布の部分を引っ張ると、
全体が、大蛇の脱皮した皮のように、ずるずると抵抗なく剥けていったのだった。まり亞
が、左側で無我夢中になっているぼくのために、分からないように、ほとんど脱がせてお
いて、くれていたのかもしれなかった。
 巨大な女の子の衣服を、脱がしていく作業の楽しさに魅了されていた。ぼくは、自分の
収穫の白い獲物の、黒く汚れた指先の部分に、キスをしていった。一日の汗と汚れを吸い
込んだ、靴下の足臭はきつかった。が、まり亞に関することならば、爪の垢まで、本当に
なんでも知りたいと思う気分になっていた。
 ルーズソックスは、絨毯の上でたるみをのばすと、ぼくの身長ぐらいは優にあった。寝
袋ぐらいには、なりそうだった。中に、潜り込みたいという衝動を押さえるのが大変だっ
た。まり亞に馬鹿にされたくはなかったのだ。ベッドのナイトスタンドの上に、くるくる
と丸めておいた。
 スポーツブラは、首の方に丸めてあったのを、顔から脱いでいった。ゴムの弾力がきつ
くて、エキスパンダーを延ばしているような大変な重労働だった。まり亞は、ぼくの指示
の通りに、両腕を上に上げている。助けられなかった。腋の下の、汗の香のする暗い湿っ
た盆地に、キスをしていた。
 ブラで、少女の鼻を釣り上げてしまい「痛〜い」と、可愛い悲鳴を上げさせてしまった。
なんとか成功した。これも、スタンドの上に置いた。
 ぼくの着せ替え人形になっている、三メートルの女子中学生は、これでスカートだけを
残す半裸になっていた。
 まり亞を床に立たせた。セーラー服のプリーツ・スカートのウエストの金具は、固すぎ
た。顔の視線の高さよりも、少しだけ上の位置だったから、力は入るのだが、ぼくの指の
全力を問題にしなかった。彼女に、ぷちんと外してもらうしかなかった。チャックを、じ
ーっと音を立てて下ろしていった。それから紺色の帳を下ろしていった。今日の主賓のプ
リマドンナが登場した。まり亞に片足ずつ、足を上げてもらって、脱いでいった。スカー
トは、手にずしっりと重かった。毎日着るものだから、丈夫に作られているのだろう。
 これで最後の一枚になっていた。暖かいホテルの部屋で、無防備に直立する、三メート
ル以上の巨大な半裸の少女と、クリスマスの夜を、いちゃついているのだった。夢のよう
だった。
 スポーツブラと同じ、紺色のローライズのボクサータイプのショーツだった。彼女の百
八十センチはあるヒップに、ぴったりと貼りついて、もう一枚の皮膚のようだった。少し
だけ脚を開いてもらった。
 その二本の塔の合体する下に、ぼくの一メートル六十五センチの身体は、あまり苦労す
ることなく、すっぽりと填まりこんでいた。その股間の位置にキスをしていった。柔らか
い絹のような内腿の皮膚にキスをしていった。さっきまでスカートの神秘の薄闇の世界に、
隠されていた場所だった。下着の股間が明らかに湿っていた。「まり亞、濡れているよ」そ
う報告した。まり亞は、「恥ずかしい」と、顔を両手で覆っていた。
 ベッドの中に入りたいようだったが、すべてを見てしまうまで、戻すつもりはなかった。
まり亞は、ぼくに任し切っていた。ぼくは、ショーツを脱がそうとした。腰の骨を越える
のが容易ではなかった。まり亞がお尻の方から指を入れて、ぼくを助けてくれていた。彼
女は、結構、協力的だった。そうでなければ、ぼくには、どうしようもないのだった。長
い長い脚を滑らせていった。
 これで、部屋の中に、ぼくの三メートル以上の巨大着せ替え人形が、全裸で立っていた。
美しかった。そう言った。まり亞は、何も言わなかったが、嬉しそうに目を細めていた。
 理想的なプロポーションだった。セーラー服を着ていると、少し小太りかと思ったが、
そうではなかった。女体の充実を示していた。インドのアジャンタという石窟に刻まれた
女体が、このような丸い果実のような乳房と、引き締まったチェロのような胴と、対照的
に、健康と多産を約束する腰を持っていた。
 あるところで、男性は、女性のウエストとヒップの7:10の比率を、もっとも美しい
と感じるという研究報告を読んだことがある。健康と多産を約束する黄金比だった。
 もう数万年から数十万年という時間を、人間の男は、そのような女を求めて来たのだ。
そうでない選択をした男性は、子孫を残せなかった。だから、現在の、私たちは、そのよ
うな代々に渡る選択をしてきた祖先の裔なのだ。知恵は、遺伝子か本能か、よく分からな
い場所にプログラムされて、インストール済みなのだ。それを書き替えることは容易では
ない。そんな報告だった。
 まり亞は、男の夢想する黄金分割の肉体の持ち主だった。このように美しいヌードを、
見たことはなかった。ばあさん連中は、もっと各部が、グロテスクに誇張されていた。全
体の調和を見いだせなかった。
 ベッドに用意されている、コンドームを装着した。それを探していて、ナイトスタンド
の引き出しに、ディルドを発見した。勇壮なものだった。長さは、ぼくの肘から先ぐらい
はあった。切り取られてペニスのようで、最初は、どきりとした。人造皮膚で、細部まで
本物そっくりに作られていた。おそらく原型は、ある男性の持ち物なのだろう。女性サイ
ズに巨大化したのだった。後で、まり亞を喜ばせてやろうと思っていた。ビニールの袋に
包まれて、「消毒済」という紙が貼ってあった。清潔そうだった。スイッチを入れておいた。
人間の体温と同じ温度になると説明書にあった。まり亞も、興味津々という顔をしていた。
 第三次性徴の女性を、男性が自然な性交で、妊娠させる確率は極めて低かった。体格が
違い過ぎるからである。しかし、ゼロではない以上は、コンドームは男の義務だった。
 二十二世紀の妊娠と出産の主流は、体外受精だった。男性は精子を、女性は卵子を生殖
センターに提供する。それを使用して、受精卵を試験管の中などで、専門家が厳重な管理
の上で、生育させるのだった。
 一緒にベッドに入った。愛し合った。シーツに包まっていると、まり亞は大胆だった。
思わぬことをして、ぼくを喜ばせてくれた。 特に正門の前のクリトリスという宝石は、
感謝を込めて、舌と指の入念な愛撫をした。彼女は、若くて汁気が多かった。ぼくは、溢
れる愛液に噎せていた。それでも、ごくごくと音を立てて、飲んでやっていた。
 大きな引き締まった腹部に、頭を乗せていた。正常位だと身長の差から、この態勢にな
らざるを得ない。なんとか乳房にも手が届いた。健康的に、縦長に引き締まった臍の穴を、
舌で愛撫していた。まり亞を笑わせていた。ウェストは、百二十センチメートルと、しな
やかに引き締まっていた。三メートル以上という身長があるから、ぼくには大きく感じら
れるが、同世代の少女たちからすれば、まり亞は、しなやかに引き締まった姿態をもった。
子鹿のように可愛らしい小柄な少女なのだ。さっきの三人組との比較から明らかだった。
 ウェストには、腕を回せることが嬉しかった。全力で抱き締めた。腹筋は、まり亞が力
を入れると、鋼鉄の板を内蔵しているように硬化することがあった。そこに耳を当てると
健康な消化器が活動しているがわかった。大量の牛肉を消化して吸収する。絶え間ない運
動だった。深海の音楽のように不思議な音楽が、体内の奥深くから聞こえて来ていた。ま
り亞の広い面積に生えている陰毛の草が、ぼくの腹部までをくすぐっていた。
 彼女の蜜壷は、熱くて蜂蜜に満たされていた。ぼくが侵入したのは、広大な王宮の前庭
ぐらいに過ぎないだろう。しかし、ぼくは、そこで、思う存分に暴れてやった。クリスマ
スの女神のために、技巧の限りを尽くして、誠心誠意頑張った。この時ほど、大学のばあ
さん連中の、文字通りに一対一の個人授業の薫陶が、嬉しかったことはない。何でも人生
に無駄なものはないのだ。まり亞は、ベートーヴェンの喜びの歌の大合唱を、一人で演じ
て見せた。ぼくの細い指揮棒は、明らかに彼女の中から、歓喜の歌声を響かせることがで
きた。嬉しかった。
 それからぼくたちは、バスルームの滑り台を使って、何回も何回も遊んだ。まり亞は、
ぼくを胸に抱いたままでの滑走を好んだ。凄い水しぶきが上がった。プールのような風呂
の中に着水した。ジャグジーにも入った。あんなに大きかった風呂も、まり亞が入ると彼
女一人で、ちょうど良いサイズだった。そして、ぼくたちは、風呂に飽きるとベッドに向
かい、またジャグジーで汗を流した。
 何回目かのジャグジーの後で、ぼくは、まり亞にお願いをした。自分の顔に座ってくれ
ないかと言った。もちろん、本気ではなくて、軽くで良い。ぼくは、理由を説明しようと
した。しかし、彼女の大きな手が、ぼくの口だけではなくて顔全体を即座に塞いだ。まり
亞の目が「言わないで良い」と、訴えていた。明らかに、彼女は知っているのだ。泥酔し
たぼくは、彼女にとんでもない愚痴を聞かせてしまっていたらしかった。
 プールサイドのような風呂の脇のタイルの上に、バスタオルを敷いた。ぼくは、そこに
横になった。神殿の犠牲になる気分だった。まり亞は、ぼくの真上に大きく脚を開いて聳
え立っていた。何と大きいのだろうか。この視点から見上げる彼女は、巨大な天地創造の
女神のように神々しかった。
「いくわよ」
 その巨大な黒い影が、ぼくのほうにしゃみこんできた。運命の隕石ガイアのように、地
球に降下してきた。女性教官に苛まれた時の恐怖が蘇っていた。ぼくは、顔面蒼白になり
ながらも、かろうじて悲鳴を堪えていた。まり亞の心配そうな顔が、彼女の量感のある下
半身の影に隠れてしまっていた。最後の彼女の表情は、読めなかった。
エピローグ
 少女の胃袋に、生きたままで飲み込まれたようだった。酸素が不足していた。身体の上
に、少女の二百センチメートルはあるヒップが乗っていた。磐石の重みだった。臀部の筋
肉は鋼鉄のようだった。恥骨の形が、鼻梁の骨に感じられた。臀部の筋肉は左右から、ぼ
くの顔を押し包んでいた。鼻も口も押し潰されて、ぴくりとも動かせなかった。口の上に
性器の末端があった。まり亞は、ぼくの足の方に顔を向けているはずだ。肛門が眉間の上
にあった。もう、いい。やめてくれ。そう頼もうとしても、口が開かなかった。呼吸が苦
しくなっていた。窒息感が強まっていく。心の中で、助けてくれと絶叫していた。まり亞
は、ぼくのことを、このまま始末してしまうつもりなのだろうか。ぼくの蔵書をそのまま、
そっくり自分のものにしてしまうつもりなのだろうか。初対面のぼくに対して、優しすぎ
た。少女の起こした、猟奇的な殺人事件が、思い出された。第三次性徴期にある女の子は、
ホルモンの不安定のために、性格も危険な暴走をすることがあると、聞いたことがあった。
このまま、お陀仏なのかと思った。上にも左右にも、まり亞という少女の、湯上がりのシ
ャンプーと汗の香のす・u「襦w)、肉の壁があった
。上は尻で、左右は太腿だった。彼女は、ぼくの希望のままに、顔の上に座ったままで、
腰を上げようとしないのだった。十四歳の小太りの美少女の体重は、おそらく四百キログ
ラムは下らないだろう。男性用の軽自動車一台分が乗っかっていうようなものだ。頭蓋骨
が歪んでいるようだった。あちこちが、軋みながら悲鳴を上げていた。尻の下が、自分の
最期の地として、ふさわしい場所なのかどうか、分からなかった。
 そして、彼女の肛門の周囲の筋肉が、硬化するのが分かった。腹筋と同じだった。それ
から、顔面に圧迫感があった。空気の圧力を感じた。アンモニアの臭気がした。そして、
ぱっと世界が明るくなった。まり亞が立ち上がっていた。圧迫が一瞬にして消えていた。
「あっ、ごめんない。あたし、緊張してしまって……」
 なんと、まり亞が、顔面騎乗をしながら、おならをしたのだった。アンモニアが、ぼく
の濁った意識を明晰にしてくれた。
 そして、ぼくは、笑いに笑った。止めることができなかった。笑いは伝染する。あまり
にも笑い続けるので、始めは、心配そうな表情であったまり亞も、声を合わせて明るく笑
ってくれていた。
 まり亞の屁は、ぼくの悪夢を文字通りに、吹き飛ばしてくれたのだった。自分が何を悩
んでいたのかと思った。答えは明白だった。あのばあさんのいる大学を出れば良いのだ。
非常勤講師でもしながら、論文をつぎつぎと書いていくつもりだった。
 やがて、悲しみが内部から満ち潮のように高まっていた。ぼくは涙を流していた。そう
いえば、栗栖二郎は、今まで泣くことも出来なかったのだ。塩辛い水は、ぼくの体内から、
いくらでも溢れてきた。
 まり亞は、柔らかい二百センチメートルの巨乳の胸に、そっと抱き締めてくれていた。
 次に目を覚ましたのは、ベッドの中だった。窓から夜明けの雪明かりが、白々と差し込
んでいた。昨夜の内に、だいぶ雪が積もったようだった。街は、しんと静まり返っていた。
車の音がしない。電車も、とまっているかもしれなかった。もう一泊しても良いかと思っ
た。ノイエ・シブヤでは、うまいピザの宅配が、食べられるはずだった。
 バスルームの方から、異様な気配がした。まり亞だった。声を圧し殺している。喘いで
いるのが分かった。苦しんでいるような声だった。腹でも痛いのか。心配になった。昨夜
は、十キログラムの牛肉を平らげたのだ。しかし、すぐに真相が分かった。
 そうではない。あれは喜びの声だった。
 昨夜のが、大合唱だとすれば、今度は声を殺した忍び泣きのような、少女のソプラノの
独唱だった。
 まり亞は、例のディルドを使用しているのだった。
 昨夜は、ぼくなりに奮闘はした。が、まり亞の巨大な欲望のすべてを解消してやること
は、ぼくの体力では、やはり無理だったのだ。
 少しだけ悲しかった。
 そのまま、ベッドの中で寝たふりをしていた。
 やがて、まり亞が戻ってきた。彼女は、肩の上まで、布団を掛け直してくれた。それか
ら、ぼくの髪にキスをした。「好きよ」とだけつぶやいていた。
 ぼくの方に顔を向けて、寄り添うようにしてそっと横になった。母が子の添い寝をする
ような態勢だった。ぼくの肩に乗せた彼女の片手が重かった。すぐに、健康的な、すやす
やという寝息を立て始めた。湯上がりの素肌には、何も掛けていなかった。窓を背にして
いた。やがて、陽光が差し込んできた。
 肉色の山並みのような三メートルの少女の巨体が、朝焼けの光に染まっていく。微妙な
陰影の光の衣を、美しく身に纏っていく。生きている人形のように完璧だった。
 神様がプレゼントしてくれた、クリスマスのフィギュアだった。
新・第三次性徴世界シリーズ・2
ラブホテル13号室の巻 完
【作者後記】「ラブホテル13号室」は、「第三次性徴世界」のアイデアとしては、古いも
のに属します。巨乳のグラビア・アイドルだったYさんが、まだ17、8歳の頃でした。
この頃のYさんの表情と胸元は、笛地にとっては、夢想の完璧な体現者でした。写真集の
ページをめくりながら、彼女のX2倍の、身長三メートル以上のフィギュアが、自室に欲
しいなという、妄想をしていました。それがシリーズの原点にあります。ふくよかな頬の
美少女だったYさんも、細面の美人になられて、元気に御活躍されています。光陰矢のご
とし。感慨があります。お楽しみください。笛地静恵
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GIRL BEATS BOY