ベルカンシスの欲望
Text by SAKUMA
第二話

     2時間目の体育の授業が終わり、3時間目の授業が始まる前の休み時間。
 同じクラスの渡辺が、僕に近づいてきた。顔を紅潮させて、
 「さっきさ、そこの二階の渡り廊下で、すげえ美人に声かけられたよ」
 「あ、そうなの」僕は答えた。
 「背がこんな高くてさ、脚がこんな長くて、ジーパンが似合って」
 「へえ」
 「まいあがったよ、僕。修英学院大学の人だって。やっぱ違うね、雰囲気が全然」
 「そう・・・。で、その人なんだって?」
 「それがさ・・・」 
  渡辺は、僕をにらみつけて言った。
 「誰だよ、あの美人。まさかおまえの姉貴か?まさかな・・・」
 「だからなんて言ったんだよ、その人」
 「"昼休みに修英学院大学体育館の玄関前に来るように、山崎潤に言っといて"って。
  なんだよ、あの美人。どういう知り合いなんだよ!姉貴なのか?」 
 「なんで、"姉貴"だと思うんだよ」 
 「これ」 
  渡辺が見せたのはA5サイズの答案用紙だった。
 「その人が落としていったんだよ。書いてあるだろ、名前のところに。
  "MARIKO YAMAZAKI" って。名字が同じだからさ。 
  それにしても、ムッツカシイことやってんだな大学生って」 
 「いやみだよ。こんなものおとしていって」 
 「でも、満点だろ・・・。これ数学じゃん。統計とかあっちのほうだ。 
 山崎、おまえあの美人に特訓してもらえよ。 
 おまえのさっきの算数の小テスト・・・ひどかったもんな。
 ほら、この答案、おまえにやるよ。お守りにしろ」 
 
  4時間目・・・。授業中の僕は、"MARIKO"の答案と自分の答案を見比べて、
 ため息をついていた。政治学に関連して高度な統計学を学ぶ、15歳の女の子、妹。
 一方、小学校レベルの算数問題に四苦八苦する19歳の少年・・・兄。
 
  不安な気持ちで、僕は体育館に向かった。
 体育館前の段差で足を投げ出して座り、 
 ジーパン姿の2人の女の子が僕を待ち構えていた。
 「あ、きたきた」 
  片一方の女の子が立ち上がり、僕に近づいた。 
 「潤クンでしょ?」 
 「はい」 
 「ハハハ・・・。近くで見ると、また一段とチビだ、こいつ」 
 「・・・。」 
  もう一方の女の子・・・麻理子も近づいてきた。 
 「紹介するね。この娘、本庄亜由美ちゃん。12歳」 
 「じゅ、じゅうにさい・・・」 
  僕は絶句した。
 「私も15歳で大学に入って、超鼻高々だったけど、"12歳で大学生"には、完敗。
  亜由美ちゃん、4月3日うまれだから、体も脳も発育が早いのかもね」
 「関係ないですよお、そんなの」 
  本庄亜由美は口をとがらせた。 
 
  12歳と15歳の大学生を目の前にして、僕は一刻も早くここから去りたかった。
 4月3日生まれの12歳と言う事は、新制度の前なら小学生・・・。
 しかし、おそらく170近くある長身の本庄亜由美は、もっと年上に見えた。 
 半ズボン姿のチビ・・・僕・・・。
 
  亜由美が口を開いた。
 「今朝、超美人のお姉さんに土下座させられてる男の子見たけど・・・。 
 あれ、君だったんだね。潤クン。おまけに2時間目のドッジボール。 
 女の子にボールぶつけられまくって、半べそかいてたよね。 
 見えるのよ、小学校の校庭が、大学の教室から。 
 いいなあ・・・。いじめられる姿が様になってるよ。私もいじめていい? 
 土下座させられてるとき、泣いてたんだって?潤クン」 
 「な、泣いてません!」
 「ビックリしたあ!急に声だして!おとなしい子だなあと思ったら、急に!
  でも言ってたよ、君の"妹"の麻理子さんが」 
 「な、なんで嘘言うんだよ、麻理子!」
 
  しまった、と思った時には遅かった。麻理子は僕に平手打ちを食らわせた。
 「口のききかたに気をつけなさい、って行ってるでしょ。潤!あんた、小学生なのよ」
 「す、すみませんでした・・・」
 「泣いてなかったっけえ・・・」麻理子は意地悪に言った。
 「泣いてないです・・・」 
 「じゃ、本当のところどうだったのか、もういっぺん再現しよう、土下座して!」 
 「ええっ!」 
 「その、コンクリートの上に土下座して」 
 「な、何でですか」 
 「何で、とかそういう問いかけは10年早いの。 
 言われたとおりにやるのが、あんたたち付属小学校児童の役目」
 「できません・・・。すみません、できません」 
 「へえ、拒絶するわけ・・・。全然わかってないようね、小学生」
 麻理子は、本庄亜由美に何か合図を送った。
 「OKです」亜由美は答えた。 
 麻理子は僕の右腕を、亜由美は左腕をつかんだ。
 「な、なんですか!何をするんですか!」 
 「じたばたしないで!」亜由美は、僕を蹴り上げた。
 「全くバカなんだから・・・。知らないよ、どうなっても」亜由美のため息が漏れた。 
  あっという間に、僕は隣接の体育倉庫に引きずり込まれた。 
 
 
 
  10分ほどでリンチは終わった。
 時間は短いが、ほとんど絶え間なく繰り出される暴力とで、 
 僕の体は立ち上がれないほどのダメージを受けていた。
  
  心理的なショックも大きかった。
 罵声を浴びせられながら、亜由美に股間を踏みつけられ、 
 恥ずかしいことに僕は、射精してしまった。 
 
 「うわー。なにい、こいつ。チョー変態」
 「情けない・・・。こんな奴が家族にいるなんて・・・。もう死んでくれないかな」 
 「殺しちゃいますか」 
 「いや・・・。もう少し生かしとこう。せっかくのおもちゃだから」 
 「なかなか刺激的でしたよね」 
 「こいつ、ホントにバカだから・・・。 
 私達に歯向かってどうなるかの想像もつかないのよ」
 「また、やりたいな」 
 「またやろうね、亜由美ちゃん」 
 
 

          第二話 完 


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