町で見かけたGIRL BEATS BOY 観戦記
Text by Mampepper



 北風の厳しい1月某日、近所を歩いていると、掲示板に「少年柔道の市内大会」の
告知を見かけて、ちょうどヒマだった私は、何の気なしに出かけていきました。

 告知ではすぐ近くにある体育館が会場ということになっていたのですが、行ってみると
そこにはママさんバレーの団体さんが練習しているだけでした。
 どーゆーこっちゃと首をひねりながら歩いていると、柔道衣姿の男の子が走ってきて、
体育館のすぐ隣にある小さな道場に入っていきます。
 そこで行われていたのは、「市内大会」とは名ばかりの、むちゃくちゃローカルな大会で、
学年は2年ごとに分けられ、しかもそれぞれ十数人しか選手がいません。
2回、多くても3回勝てばもう決勝になってしまいます。
選手のレベルも高いとはいえず、短い時間での一本勝ちが多く、非常にサクサク進みます。
 1時間もすると各学年の決勝戦を迎えました。
 小学生だけの大会なので、絞め技や関節技のえぐい応酬もなし。
 しかし、狭い道場は関係者や父兄で超満員で、冬というのに暑いくらいです。
 
 女子選手も何人か参加していましたが、ことごとく1回戦で姿を消す中で、
いやー見に行ってよかった、3・4年生の部でひとりだけ、女子選手が決勝に進出です。
最近の小学生の体位ってよくわかりませんけど、4年生にしては大柄で大人っぽく、
ショートカットのボーイッシュな顔つきで、ちょっとかわいい。名前は「ミナコ」ちゃん。
準決勝でも男子のしかけた大外刈りを切り返しての堂々たる1本勝ち。
 相手はまた、ひときわちびっこい男子でした。この男の子は3年生で、女の子より
年下です。彼は(たぶん同じ柔道教室の)友だちから「ヒロキ」と呼ばれ、
大きな声援を受けていました。小柄ながらいわゆる闘志をむき出しにして向かっていくタイプで、
準決勝では自分の倍ほどもある4年生の男子と対戦し、スピードでかく乱して判定勝ち。
応援の子供たちのひときわ大きな歓声を呼びました。

 いよいよミナコちゃんと、ヒロキくんの間で決勝戦が始まりました。
 積極的に組み合ったヒロキくんは、盛んに足を飛ばしたり、背負い投げを
狙ったりして攻め立てます。ミナコちゃんはちょっと見には防戦一方という
感じで、ヒロキくんの応援団も少し彼女の体勢が崩れるたびにヤンヤの歓声。
しかし、上背でまさるミナコちゃんは、組み合うたびにヒロキくんの奥襟をつかむという
戦法をとっていました。手数はヒロキくんが圧倒的に多いのですが、この状態では
絶えず首が下がって姿勢が悪くなってしまうので、ヒロキくんの技も効果が半減して
しまっています。準決勝では何度も大きな相手を浮き足だたせた背負い投げも、
ミナコちゃんの巧みなさばきにあって、なかなか決まりません。

 何度かの「待て」の後、いつものように組み際に相手の奥襟をつかんだミナコちゃんは、
強引な内股。これが結果的には勝敗の分かれ目になってしまいました。
 ミナコちゃんの右足がヒロキくんの股間にすっと入り込み、大きくあがった瞬間。
ヒロキくんの下半身が「カクン」と一瞬、痙攣でもするように揺れました。
ミナコちゃんの足が、勢いあまってヒロキくんの睾丸を跳ね上げてしまったのです。
さらにそのまま、ヒロキくんは顔面を畳にモロにぶつけてしまいました。
「ごすっ」という鈍い音が狭い道場に響きます。
内股は結局決まらなかったのですが、ヒロキくんはその場にしゃがみこんで
「うっ…うう〜んン……」
と、睾丸をかばいながら悶絶。私からはよく見えない角度だったのですが、
顔を青畳にこすりつけるようにして、必死に痛みに耐えます。恥も外聞もなく
股間を押さえ、ダンゴムシのように丸まってしまいました。
足にも軽い痙攣がきているようで、細かく震えています。
しばらく試合が中断するハプニングとなりました。
「大丈夫かぁ?」「ヒロキ、ガンバ!」という声援が飛び、ようやく立ち上がった
ヒロキくんは開始線へ。どうやら今の内股で顔をすりむいてしまったらしく、
顔を真っ赤にして目からちょちょ切れるナミダを必死にこらえるその姿は
なかなかに萌え萌えです。
 主審の「はじめ!」の合図が終わるか終わらないかのうちに、ヒロキくんは
「くっそぉー!」と大声を出しながら、ミナコちゃんに突進しました。
ほとんどケンカです。
自分より大きな女の子に泣きながらむちゃぶりついていくヒロキくん。
しかしやはり奥襟をつかまれ、長いリーチで距離をとられ…ポーカーフェイスの
ミナコちゃんは余裕さえうかがわせます。
「くそー、くっそ〜!!」キン◯リの痛みと怒りで冷静さをまったく失った
ヒロキくん。怒声を上げながら前にもましてさかんに足を飛ばしますが、
もうフットワークがメタメタです。
「えいっ」
ミナコちゃんは小さく気合いを入れると、突進するヒロキくんに出足払い。
これがカウンターで見事に決まり、ヒロキくんは横倒しに倒れます。
「技あり!」
必死に体を横にしてかろうじて一本は免れたヒロキくんですが、
そのまま体重がガッチリと乗った袈裟固めで抑え込まれてしまいました。
「抑え込み!」
ミナコちゃんは自分で回転しながら
次第に完全な袈裟固めの体勢を作っていきます。
「ううっ……くそ〜っ…くっそぉぉぉ〜……」
ヒロキくんはなおも声を上げ、顔をくしゃくしゃにしながら抵抗します。
足を上下左右にバタつかせ、必死にブリッジを試み…しかし、ミナコちゃんは
ヒロキくんの首根っこを完全に決めており、抑え込みははずせません。
苦しまぎれにヒロキくんは、空いている手でミナコちゃんの顔を下から押し上げて
抵抗。しかしミナコちゃんは少しも慌てず、顔を振ってやりすごすと、
一瞬自分の体を浮かせ、勢いをつけてヒロキくんにボディプレス。
「ぶっ…ふうううん…うあああん……あああ……」
痛みと悔しさでついに声をあげて泣き出してしまったヒロキくん。
闘志や根性だけではどうにもならない力の差を感じたのでしょうか。
顔はもう涙と鼻水でぐしゃぐしゃです。
一方ミナコちゃんは自分の勝利を確信したように、ニッコリと笑みをもらします。
いつのまにか声援を送っていたギャラリーも「ああ…ヤバい…」という感じで
静かになってしまいました。
 …そして、ついに25秒が経過。「技あり、合わせて一本!」
主審が非情にも試合終了を宣告。試合時間は1分かそこら、文字どおりの完敗でした。
準決勝で大きな年長選手を相手にみせた激しい闘魂も通用せず、その勝利を
完全に帳消しにされてしまうほどの、惨めな敗北です。
抑え込みから解放されても、しばらくの間ヒロキくんは畳の上に横たわったまま、
柔道衣の袖で何度も涙をぬぐっていました。
「……くっそぉ……ひっく…ひっく…」
悔しさに全身を震わせ、しゃくりあげるヒロキくん。
誇らし気に胸を張るミナコちゃんとは、勝敗の明暗というにしても対照的すぎます。
主審にうながされ、やっと開始線に戻ったヒロキくん。
「よくやった、ヒロキ」という声もかかりますが、正直いってこの惨敗では
そういうねぎらいはかえって酷というものでしょう。
「一本勝ち!」主審が高らかに宣言してミナコちゃんに手をあげると、本来
礼をすべきヒロキくんは、やはり悔しさがこみあげてきたのか、
「うああああ〜ん…」と激しく泣き出してしまいました。
「ほら、礼をして!」主審にうながされ、やっと礼をしたヒロキくん。
優勝したミナコちゃんには大きな拍手が贈られます。
一方、死力をしぼりつくしたヒロキくんは、応援してくれていた先輩たち(だと思います)
のところへ倒れ込むようにたどりつくと、突っ伏したまま「ああ…ああ〜ん…くそお…」
と、周囲をはばからず号泣。「ヒロキぃ…」「次頑張ればいいんだから…」という
慰めも耳に入らないようです。

 私は所用もあって、この試合の後すぐに会場を後にしたのですが、本部席の脇には
トロフィーとかカップが用意されていましたから、たぶん表彰式があったのでしょう。
これからずっと、準優勝のカップを見るたび、ヒロキくんはこの日の惨めな敗北を
思い出すのでしょうか。
 果たしてヒロキくんは、この日の悔しさをバネにして強い柔道家になるのか、
それともこれがトラウマになって筋金入りのM男になってしまうのか。
 どちらにせよ、私はヒロキくんの将来がたのしみです。

 実は、この手の「ローカルのスポーツ大会」は、柔道に限らず、「GIRL BEATS BOY」
シーンの宝庫だったりします。貴方もたまには町へ出てみたら?
(Mampepper@aol.com
まで、ご感想お待ちしています)




[←prev] [↑index] [⇒next]   [今週の新着]
Mampepperさんに励ましのお便りを出そう! E-mail

GIRL BEATS BOY
Home | index | guest | Links | bbs | info.