Text by kotetsu
東京の下町は、今でも人情味に溢れていますね。夏になると、近所は
みんな窓を開け放っているんで、いろいろな音が聞こえてきます。もう
夕方の6時をまわって、ナイターが始まりましたね。お向かいさんは大
のジャイアンツファンで、毎晩、ラジオの野球中継をガンガン鳴らしな
がら、夫婦で晩酌やって盛り上がってますよ。そうだ、今日はそのお向
かいのご夫婦のお話をしましょう。
奥さんは、昌代さんといって、身長が3mくらいあるもの凄く大きな
人なんです。彼女は、多分、今年47歳くらいだと思います。体重は
1tくらいあるって近所でも評判なんですけど、あれは嘘だと思います
ねえ。もちろん、正確な体重はご本人も含め誰も知らないというか、測
れないんじゃないかと思うんですが、僕の見積もりだとせいぜい600
kgくらいだと思うんです。いずれにしても、想像を絶する巨体ですよ
ね。ご婦人の体型を小太りって言うことがありますが、昌代さんは大太
りとしか言いようがないと思います。顔立ちは、テレビのホームドラマ
によく出てくる母親役の女優さんみたいな感じです。典型的な日本美人
だと思いますよ。昌代さんはいつも和服に白い割烹前掛けをしています。
「これだけの図体になると、洋服よりも和服の方が作りやすいのよ。」
って言っていたことを覚えています。いつもにこやかに話すとてもやさ
しい人ですね。
旦那さんの亮治さんは、55歳で、象嵌の職人さんです。なんでも将
来の人間国宝候補なんだそうです。亮治さんは典型的な古い日本の男っ
て感じで、とても小柄な人です。身長は150cmくらいでしょうか。
ガリガリの体型なので、体重は40kgくらいしかないように思います。
そんな亮治さんが昌代さんと並ぶと、まるで象と犬が並んでいるような
感じになるんです。小柄な亮治さんが奥さんの背後に回ると、見上げて
も奥さんの巨大なお尻しか見えないんじゃないかと思うんです。昌代さ
んの象みたいなお尻の横幅は、亮治さんの肩幅の3倍くらいありそうで
す。
それでも、奥さんの前では、亮治さんはいつも威張っていますね。
「この馬鹿!」とかなんとか、いつも昌代さんを怒鳴りつけてるんです
けど、昌代さんは、いつもうつむきながら「はい」とか「すみません」
とか言っています。奥さんがその気になれば、旦那さんなんか踏み潰せ
ちゃうと思うんですけど、喧嘩すると泣かされるのはいつも昌代さんの
方みたいです。亮治さんは、とても短気な人で、いつも昌代さんを怒鳴
りつけています。怒鳴るだけじゃ気が済まなくなると、竹刀を持ち出し
てきて、奥さんの太股やお尻をパンパン叩いています。随分ひどいこと
をするなあと思って、あるとき昌代さんにそのことについて聞いてみた
ことがあるんですけど、彼女が言うには、
「うちの人は小さいから、大声出して竹刀で叩いてもらうくらいじゃな
いと、あたしが気が付かないときがあるのよ。あの人が精一杯竹刀で叩
いたところで、あたしはくすぐったくもないし、むしろあの人の方が手
が痛くなってるんじゃないかしら。」なんだそうです。
ある日、亮治さんが銀行からお金を借りて、黒いバックに詰めて家に
持ち帰ってきたときのことです。家の裏の路地に入ったところで、金髪
で長身の若い男がバールで亮治さんの頭を殴って突き倒し、バックを引
ったくて逃げようとしたんです。亮治さんの眼鏡は吹き飛び、額からは
血が流れていたんですが、亮治さんはバックの柄の部分に必死にしがみ
付いていたんで、男に引きずられるような格好になったらしいんです。
亮治さんは、必死で「昌代!昌代!」って叫んだそうです。それでも力
尽きて、バックを離してしまったんで、男は後ろに向かって全力で走り
去ろうとしたんです。
そうしたら、男の前に白くやわらかい壁ができていて、男はその壁に
めり込んだんですね。それは昌代さんの割烹前掛けをしたお腹だったん
です。男が遙か上を見上げると、凄まじい形相の昌代さんが男を見下ろ
していました。身長が175cmくらいあるその男も、昌代さんの前で
は幼児みたいなもんです。昌代さんの巨大な右手がブーンと音とたてて
飛んできて、男の顔面と胸板をいっぺんに被い、もの凄い勢いで叩き飛
ばしたそうです。男は紙切れみたいに吹っ飛ばされて、亮治さんの上空
を通過し、3mほど後方のアスファルトの地面に叩きつけられました。
倒れていた亮治さんには、昌代さんが地響きを立てて突進するように
見えたらしいんですが、額から血を流しながらも亮治さんはふらふらっ
と立ち上がり、大木のような昌代さんの太股に必死でしがみついたそう
です。おそらく、亮治さんが二人がかりで、やっと昌代さんの片方の太
股を抱えることができると思うんですが、とにかく前掛けにしがみ付く
ようにして、必死で昌代さんを止めたそうです。
「ま、昌代、やめろ!おまえが本気出したら、相手は死んじまうぞ!」
「だ、だって、あんたをこんな目に ...」
「お、俺のことはいい!それより、おまえを人殺しにするわけにはいか
ん!」
結局、昌代さんはそれ以上、何もしなかったそうですが、そのときすで
に男は顔面や鎖骨を何カ所か骨折していて、意識不明だったそうです。
昌代さんにしてみれば、軽く一発撫でたくらいだったんでしょうが。
話は変わりますが、十五年くらい前のある夏の晩、蚊帳のなかで昌代
さんと亮治さんが並んで寝ていたときに、急に昌代さんがこんなことを
言ったんだそうです。
「ねえ、あんた、たまには綺麗なお姉さん、抱きに行ってもいいんだよ。」
「なんだ、急に。馬鹿!」
「あたしがこんなだから、たまには小さくて可愛いお姉さんが恋しくな
るだろ。別に遠慮なんかしなくてもいいんだよ。でもその代わり、最
後はずあたしのところに戻ってきておくれよ。」
「ああっ、馬鹿らしい!女なんぞはお前ひとりでたくさんだ!もう寝ろ!」
そうそう、申し遅れましたけど、僕の奥さんは昌代さんよりもっと大
きいんです。いま27歳で近所の高校で先生をしています。実は、この
夫婦の会話は、僕の奥さんから聞かされたんですけど、亮治さんは古い
タイプの巨女フェチなんでしょうね。僕は現代の巨女フェチですが、日
本の巨女フェチには世代があるように思うんです。少なくとも、僕は自
分の妻に対して亮治さんみたいに接することはできません。逆に、もし
僕が浮気なんかしていることがバレたら、ウチの奥さんにその場で踏み
殺されると思いますよ。
あっ、奥さんが食事だって言ってます。それじゃあ、今日はこのくら
いで失礼します。
(了)
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