新・第三次性徴世界シリーズ・6
夏の妹の巻・2
笛地静恵
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1・瑛子
 あれから一年が過ぎたのだ。
 ぼくは、今日、何度目かに、前髪の位置を手櫛で直した。いちばん可愛らしく見えるカ
ーブにした。鏡に映るビキニのぼくの背景には、南国のあくまでも白い砂浜と、青い海が
映っている。絵葉書のような光景だった。
 あそこで、ぼくは一年前に、光一お兄ちゃんによって、女になる儀式を済ませたのだ。
キスから始まって、すべてを捧げた。初めてでも、エクスタシーがあったのが嬉しかった。
 最初は痛くて、身体を真ん中から、二つに裂かれる生木になったような気がした。男の
力を恐いと思った。逃げようかと本気で考えた。でも、お兄ちゃんの腰の律動に合わせて
いると、自然に身体の内部から沸き上がる、大津波のような快感を味わった。本当に素敵
だった。処女でいて、良かったと思った。瑛子の最初の相手は、お兄ちゃん以外に考えら
れなかった。
 性交が、第三次性徴の進行を加速するという話は、学校の先輩などからも、いろいろと
耳にしていた。でも、もう仕方がなかった。遅かれ早かれ、結果は同じことだっただろう。
 女の子ならば、その日は来るのだ。
 ぼくは、脱皮の季節を迎えていた。この一年間で、166センチメートルだった身長は、
332センチメートルになった。ちょうど倍だ。まだまだ大きくなるだろう。
 女の子の第三次性徴期は、成長ホルモンとともに性ホルモンも、大量に分泌される。欲
望が強くなるから、注意するようにと、中学校の保健体育の女の先生も言っていた。勉強
やクラブ活動に、体力と精力を使うようにという話だった。
 いろいろな本もあるし、道具もある。どうしても我慢できない場合は、専用のディルド
を持つようにという指導もあった。
 ぼくも、他の女子と同じように、中学校推薦の一本を購入した。『我王丸』という。なか
なか、便りになる奴だった。ぼくはお兄ちゃの名前の一字を借りて、『光丸』と名付けてい
る。腰がうずいて眠れない夜は、何度も使用した。その都度、光の国にいけた。ある程度
の満足をして、眠ることができた。
 友達の中には、男の子を相手に悪い遊びをするものもいたが、バカみたいだと思う。瑛
子は、そんなことはしなかった。女の喜びを知っていたからだ。子どもの遊びにしか思え
なかった。『我王丸』のほうが、よほどいい。
 単独でも仕えるし、男の子の腰に専用ベルトで装着してもらうと、人造ペニスになると
いうすぐれものだった。
 もちろん、まだ、だれにも試着させていない。これも、最初に使うのは、お兄ちゃんで
なければならない。
 去年の行為に、唯一の後悔があるとすれば、瑛子の勇気がなくて、お兄ちゃんのペニス
に、フェラチオをして上げられなかったことだ。本で読んで練習していたのに、残念だっ
た。もっと喜ばせてあげられたのに。
 お兄ちゃんが、求めてくれればしていたのだ。光一お兄ちゃんは、瑛子のにしてくれた
のだから。あれも、他では得られない絶妙な感触だった。
 今年は、ミニチュアの『我王丸』(つまり、男性の原寸大ペニスね)を相手に、それなり
の特訓はした。
 この大きくなった身体でお兄ちゃんに会うのは、一年ぶりである。誇らしくもあり、恥
ずかしくもあった。
 今年は、ママは仕事が忙しく、パパは欧州に写生旅行で、島に来られない。お兄ちゃん
と二人だけで休暇を過ごせた。楽しいプランを、いろいろと考えていた。
 もちろん、ビキニも用意してある。去年は、十枚だったが、今年は倍の二十枚を準備し
た。
 お兄ちゃんは、瑛子のビキニ姿が好きだ。去年も、熱い視線を向けてくれていた。特に
胸が好きなのだ。視線を意識するだけで、乳首がビンビンに勃起して困った。先端が布地
を擦ってしまう。刺激されて、痛いぐらいだった。
 胸元を強調するようなデザインを、今年も選んでみた。
 小学生の瑛子は、他の女の子よりも、胸が大きいということに、劣等感を抱いていた。
でも、お兄ちゃんは、ビキニを取った瑛子の胸を、きれいだと誉めてくれた。天に昇る程
に嬉しかった。涙も出た。
 今年は、一段と大きくなった瑛子の胸を見てもらえる。
 瑛子のバストは、182センチメートルになっていた。ウエストは118。ヒップは1
80ちょうどだ。この身長としては、けっこうプロポーションには自信があった。
 三歳の頃からダンスをしている。身体のしなやかさには自信があった。胸が大きいので、
中学校の制服のセーラー服だと、上半身が太ってみえるかもしれないが、脱げば自信はあ
った。贅肉ではなくて、筋肉なのだ。
 たとえば、お兄ちゃんが、南の島の浜辺で線香花火をやりたいと呟いていたのを、去年、
瑛子は偶然に耳にしていた。なかなかのロマンティストなのだ。花火も用意してある。ト
ンボ柄の絣のビキニも持ってきていた。団扇と蚊取線香も持参した。雰囲気を出すためで
ある。バンガローには、風鈴もぶら下げている。
 ちりん。
 海風に鳴っている。
 瑛子は、昨日から島にきていた。丸一日かけて、バンガローの内部も、砂埃まで、すっ
かりきれいになるように掃除した。去年は、ママとパパが使用していた、大人の女性用の
バンガローを、今年はぼくたちが使うのだ。賓客を迎える準備は、出来ていた。
 この一年間は、ずっとお兄ちゃんのことを考えていた。
 ネットでは、毎日のように会っていた。北京とは時差がそんなにないので、助かった。
お兄ちゃんは、優秀な生化学者になるだろう。子どもの頃から、頭は良かったのだ。でも、
青白い秀才ではなかった。スポーツ万能だった。瑛子の水泳もサーフィンもスキューバ・
ダイヴィングも、みんなお兄ちゃんに教わったものだった。瑛子は筋が良くて、飲込みが
早いねと、いつも誉めてくれた。
 不在の日もあったが、かならずメールで返事をくれた。優しい人なのだった。唯一の心
配は、あまりにも優しすぎて、大学の女子学生という飢えた禿げ鷹どものような連中が、
手を出さないかということだった。
 しかし、これも、今は学問が恋人だと、お兄ちゃんが断言してくれている。信じること
にしていた。
 全身が映る姿見の鏡に、ビキニ姿を映していた。本当に、このビキニで良いだろうか。
ストリング・タイプで、生地が小さい。想像力に、ほとんど余地を残していないタイプだ
った。
 どのような顔で会うべきか。
 鏡の中で、何度も練習していた。
「鏡よ、鏡よ。鏡さん。ぼくが、いちばん可愛らしく見える顔は、どれかしら?」
 鏡は何も答えてくれない。
 JOEの人形を相手に、何回も練習もした。
 ぼくの年ごろで、男の子の恋人のいる女の子の部屋には、たいてい置いてある。成人男
性の平均的な身長である、165センチメートルに設定してある。等身大のモデルである。
人造皮膚なので、まつげからあそこの毛まで、本物そっくりだ。体温もある。心臓も鼓動
している。
 それも、ビキニのぼくと比較すると、ちょうど半分の股間のあたりまでしかない。本当
に小さい。でも、お兄ちゃんは、これよりも、もう少し小柄なのだ。小さいのではなくて、
瑛子の方が大きくなったのだ。
 学校の先生も言っていた。女の子は男の子よりも身体が大きいし力もある。だから、小
さくて弱い男子を、女子は守って上げなければならないのだ。いじめてはならない。その
通りだと思う。性的な遊びのために、オモチャにするなんて、とんでもないことだった。
ぼくは、お兄ちゃんに対して、絶対にそんなことはしない。
 ただ、この島の危険な自然環境から守ってやり……、そして、うふふふ。少しだけ二人
で楽しいことをして、遊びたいだけだった。
 顔立ちは、JOEよりも、お兄ちゃんの方が美男子である。白い歯がきれいに並んでい
るところが、少しだけ似ているだろうか。
 瑛子は、笑顔がひきつっているのがわかる。緊張が、頬の筋肉を固くしていた。そろそ
ろお兄ちゃんが、飛行場に到着する時刻だった。
 空から、プロペラ機の音が、驟雨のように降ってきた。どきっとした。
2・光一
 僕は、飛行場で金髪の女の子の赤帽に捕まってしまった。荷物はボストンバッグ一個だ
けだったのだ。金髪碧眼の彼女は、格納庫から下ろされてくる荷物の中から、ぼくの革鞄
をひょいと片手で持ち上げてしまった。
「あっ。間違いですよ」
 急いで注意した。乗客は、この島から離島に散らばっていくツアー客を含めても、全員
で二十人といなかった。
 「イイカラ。イイカラ。分かってます。コーイチ・オオウミ(大海光一)さんね。お金
いただいてますデスね」
 彼女は、空港の許可を得ている赤帽の帽子を、自由な方の手の長い人さし指一本で指差
してそういった。
「待ってくれよ」
 僕は、小走りに後を追いかけていた。荷物ドロボウかと思ったのだ。自分の日用品は良
いとして、妹へのプレゼントが入っている。貴重品だった。
 デニムのパンツのお尻を左右に振りながら、飛行場の出口の方に向かって、すたすたと
歩きだしていた。左右にはみ出た、アクセントの白いリボンが揺れていた。
 いきなり彼女が立ち止まった。お尻に正面衝突していた。
「ハイ?」
 どしん。僕は引き締まって固い筋肉質の球体に、顔面からぶつかっていた。砂の上に跳
ねとばされていた。
 彼女を見上げていた。
 ビキニのブラトップは、真っ黄色に真っ赤なハイビスカスの花柄だった。日焼けした肌
の色と、鮮烈な対照をなしていた。リゾート気分満喫というデザインだった。胸の影が腹
部に落ちていた。十五歳ぐらいだろうか。大人のようなスタイルだったが、童顔だった。
「アラアラ、スミマセンね。飛行機がおくれて、ずっとまっていたのです。アタシ、あせ
ったみたいです」
 彼女は、僕の手を取って立たせてくれた。
「はじめました。アタシ、アイリス・アローズといいます。この島でのバカンスを、たの
しくすごしてください。よろしくおねがい、モーシあげます」
 旅行会社のアルバイトの社員であるとハイビスカスの胸を張って、(別に張らなくても、
充分の目立っていたのだが)自己紹介をしてくれた。すでにママの名義で、案内人として
の料金を、受け取っているという説明を丁寧にしてくれた。 旅行会社発行の、正規のラ
イセンスと契約書を見せてくれた。デニムの尻ポケットに入っていたので、肉の曲面の形
が、すっかり刻印されて湾曲していた。ママから、島の旅行代理店に、話はついているか
らと言われたのを、思い出していた。こういうことだったのか。
「大海光一です。こちらこそ、よろしく。アイリス」
 僕たちは、握手をかわした。彼女の大きな手の、人差し指と中指を握っていた。これが
第三次性徴の女性との、正式な握手の仕方だった。
 改めて顔を眺めていた。少し顔の幅が横に広かったが、まつげの長い瞳も口元も愛くる
しい表情を見せていた。人懐こい印象があった。子どもを安心させる顔だった。笑顔を浮
かべていた。身長は、3メートル50センチというところか。妹の瑛子よりも少し大きい
ぐらいなのだ。スリムなボディなのだが、厚みがあるので、量感には不足はなかった。
 僕たちは、並んでバンガローの方角に向かって歩きだした。舗装されていない。砂の道
だった。僕スニーカーの足が、砂に取られてもつれた。靴の中に、砂がぱらぱらと入って
きた。
 道の両側には、熱帯の植物が繁茂していた。砂の中に、割れた貝殻が、白く干涸びて半
分埋まっていた。
「だっこしますか?ミスター・オオウミ?」
 アイリスが、心配そうに見下ろしていた。
「アタシの肩にのせて、はこんであげますけど。みはらしがよいと、日本人の男性のみな
さん、よろこんでくれますが?」
 僕は、断った。日本男児の名折れだと思っていた。彼女の肩に座って、乳房に両足を乗
せてニヤついている、同胞の黄色い顔が見えるような気がした。不愉快だった。
 アイリスは、肩をすくめていた。よちよちとした、僕の亀のような歩みに、辛抱強くつ
きあってくれた。
 バンガローにいく途中の道の角で、瑛子が待っていてくれた。アイリスと比較すると、
頭半分小さかったが、すでに『第三次性徴世界』の女性に、成長していた。堂々とした美
しい姿態だった。藍色の蛍光色のビキニを着ていた。僕が青系統の色が好きだと言ったの
を、覚えてくれていたのだろう。
「アイリス、どうもありがとう」
 彼女の手から、きつい表情で、僕の旅行鞄を奪い取っていた。妹の目には力がある。こ
うした表情をすると、凛とした迫力があった。 
「後は、僕がやるから。今日は、もういいわ」
「ハイハイ、なにかあったら、よんでくださア〜い」 
 アイリスは、僕に片手で投げキスをすると、大きな腰をふりふり立ち去っていった。
「ふん、光一のお迎えはいらないからって、言っておいたのに。油断もすきもないんだか
ら」
 妹はぷんぷんしていた。
 でも、僕と手をつないで歩きだしていた。妹の出会いは、二人の大小の差が大きくなっ
たために、もうすこしたいへんかと思っていたが、アイリスが良い緩衝材になってくれて
いた。彼女と比較すると、瑛子は小柄で清楚な印象があった。
 二人は、バンガローに入った。去年は、ママたちが使用していた方だった。室内は、掃
除が行き届いていた。瑛子がわざわざ前日について、僕を迎えるための準備をしてくれて
いたのが分かった。ウエルカム・マットも洗ったばかりのようにきれいだった。
 彼女は、僕を中に先に入れると、後ろ手に、ドアを閉めて鍵をかけた。ピーンという固
い錠前のバネの音が、潮騒しか聞こえない静かな部屋の中に、大きく響いた。島の生活で
は、めったにドアに鍵などかけない。瑛子の、ある決意をこめた音であることは、明らか
だった。ここから先は誰も入れない。二人だけの世界であることを、試合開始の鐘の音の
ように明確に宣言していた。
 彼女の僕への感情は、ネットの画面からでもはっきりと伝わっていた。恋であることは、
はっきりと分かった。それが一時の感情で、本当の相手を見付ければ、僕から離れていく
ことは分かっていたが、もうしばらくは、このままで付き合うしかないのは、明らかだっ
た。
 なんといっても、彼女の思春期の夢見がちな乙女の心に、これほどまでに火を点けて、
焚き付けてしまった責任のすべては、僕にあるのだから。昨年の夏に、僕は妹を抱いたの
だった。この窓から見える浜辺だった。恋人の役割を、少なくともこの島にいる間は、完
璧に演じてやらなばならなかった。
 テーブルには、これも水色の花柄の洗いたての布が、さっぱりとかかっていた。天板は、
ぼくの目線よりも高い位置にあった。その下を、簡単にくぐり抜けることができるだろう。
卓球台ぐらいの広さがあった。ぼくは男性用の、階段の三段ついた椅子に登った。
 瑛子は、ぼくの部屋に、旅行鞄を置いて戻ってきた。去年は、パパが使用していた場所
だった。
「暑かったでしょ。何を飲む?いろいろ冷えてるわよ」
 妹は、大型の冷凍冷蔵庫のある、ダイニングキッチンに立っていった。瑛子と二人で、
冷たいソーダで乾杯した。大きなグラスと小さいグラスが、チンと音を立てて鳴った。
 あたりさわりのない、ここまでの飛行機の旅の話をした。中国の北京から、この群島の
本島まで、シンガボール経由の乗り換えの飛行機で、のべ十時間。本当から、この島まで、
プロペラ機で二時間半。ほとんど半日、足が土についていなかった。どこか、まだ半分は、
身体がふわふわしていた。宙を飛んでいるような感じだった。正直にそういった。
「光一、長旅で疲れたでしょ?ジャグジーの風呂が、湧かしてあるけど、入るかしら?晩
飯は、まだ先でいいでしょ」
 食欲はなかった。汗を流せるのは嬉しかった。
 妹は、「ぼくも後でいくね」と、さりげなくいった。僕の顔を見なかった。
 二階へ、階段を上がっていった。男性用は手摺りの下がスロープになっている。縄に体
重をかけて登っていった。女性用の階段は、段差がありすぎた。一段、50センチの高さ
がある。
 このバンガローでは、ジャグジーの風呂が二階にある。風呂には鍵があるが、あえて開
けておいた。脱衣用の籐の篭に下着と衣服を脱いだ。素裸になった。
 窓からは、青い渚が遠くまで一望に出来た。潮の匂いのする風が吹き込んでくる。開放
的な光景だった。目を遠くの水平線にまで遊ばせていた。天井は手動で開閉できるように
なっている。夜は、ふるような星空が鑑賞できた。
 透き通った水が、浴槽の縁から溢れそうに満たされていた。地下の自家用のタンクで、
海水を濾過している。自由に真水を使用することができた。
 手を入れて温度を確認してみた。温度は熱すぎず、むしろぬるめだった。表面の波が、
白い底に水紋となって、ゆらゆらと動いていた。かすかに砂が積もっていた。瑛子が、一
度、使用したのだろう。不愉快ではなかった。南国に来たというムードを高めてくれてい
た。
 男女兼用で、深さが二段階になっている。ベージュのプラスティックの滑らかな曲線の
ある浴槽である。湯を浴びて身体をきれいにしてから、足からそっと入っていった。浅い
ほうだと、男性でものびのびと足を伸ばせた。思わず、ため息がでた。一人だけだと、プ
ールのように広く感じる。豪華な時間だった。潜って泳ぎたかったが、瑛子に子どもっぽ
いと笑われそうで我慢した。妹はまもなくやってくるだろう。
 去年は、パパと二人で入った。背中を洗ってやると、にこにこと喜んでくれた。真水な
ので石けんの泡も立つ。瑛子はママと入っていた。
 ジェットバスがついている。強さを最低にして、スイッチを入れた。微細な白い泡が、
四方の壁面の穴から噴出されてくる。全身の疲れと垢を洗い流してくれていた。マッサー
ジの効果もあるだろう。性器が緊張しているのは、泡の刺激のせいだけではなかった。
「光一、ぼくも入っていいかしら?汗をかいちゃったのよ」
 バスのドアの向こうから、瑛子の明るい声がした。そらきた、と思った。擦れないよう
に咳払いをしてから、ごく自然な声になるように答えていた。
「いいとも」
 瑛子は、トレイに冷たい飲み物と、山盛りの果物を用意していた。容れ物ごと、水面に
浮かべた。
3・ジャグジー
 お兄ちゃんは可愛かった。瑛子は、紐タイプのピンクのビキニに着替えていった。それ
を、お兄ちゃんに、ほどいてと頼んだのだった。ジャグジーの縁に腰を下ろすと、お兄ち
ゃんの身長でも手が届く。もちろん、そのためにはお兄ちゃんは、浴槽からは、全裸で立
ち上がらなくてはならない。
 ビキニの上は、両方の胸の谷間で止めるタイプだった。水に入ったら、そのままするり
と溶けてしまいそうに、ゆるくしてある。それなのに、細くて繊細なはずの未来の科学者
の器用な指が、ふるえていて、まったくいうことがきかないのだった。去年はあんなに敏
感に、瑛子の膣のなかの急所を探り当てて、愛撫してくれたのに。
 無理も、ないかもしれない。瑛子の指は、お兄ちゃんの睾丸を愛撫して上げている。陰
茎には、手が間違えて、触れるか触れないような、あいまいなタッチしかしないように注
意していた。それも、ビンビンと塔のようにまっすぐに立ち上がっていた。面白いので、
幹を指で摘んであげていた。そこに、あまりにもたくさんの血液が回りすぎて、頭に血が
登っていかないのかもしれなかった。男性性器の膨張率には、いつも驚いてしまう。どう
してこんなことが可能なのだろうか。海面体に血液が貯まるからという知識はあったが、
不思議は不思議だった。男性の神秘だった。ソーセージのように、食べたくて仕方がなか
った。ぼくの口の中で、実際に大きくなる様子を、逐一、体験したかったからだ。が、ま
だ我慢していた。手のひらに、やさしくそっと握るだけにしていた。根元から先端まです
っぱりと入ってしまう。可愛い。あの時は、あんなに痛かった。強大な凶器だったのに。
嘘のようだ。瑛子の成長のせいだった。
 瑛子は、お兄ちゃんの後頭部に、そっと手を回して、顔を深い谷間に導いてあげた。頭
部は少女の頃の果物で言えば、グレープフルーツのような大きさだった。頭皮の中の薄い
頭蓋骨が、手のひらに感じられた。力をいれたら、ぐしゃっと握り潰してしまいそうだっ
た。瑛子は、そんなことはしないが、光一お兄ちゃんに対して、自分が持ってしまった力
には、圧倒されそうな快感があった。この力ならば、何でも、してあげられそうだった。
何でも、してもらえそうだった。
 結び目の長いひとつに、口元を導いた。それを噛んで、強くひっぱるように囁いた。お
兄ちゃんの白く光る前歯が、瑛子の胸の皮膚に当たっている。あん、くすぐったい。でも、
気持ち良い。お兄ちゃんは、子犬のようだ。シュルルルッ。今度はうまくいった。結び目
は、簡単にほどけていった。興奮して歯を剥き出した「光丸」の口元から、ショッキング・
ピンクの布きれを取った。お湯に流した。ひらひらと、ピンクのエイのように浮いている。
 そのまま、お兄ちゃんを胸に抱き締めた。軽い。体重が、ほとんど感じられない。その
ままで、あたたかい湯槽のなかに、ぼくは身体を沈めていった。お兄ちゃんは、自由にな
ろうとして暴れている。不意の攻撃に、びっくりしたのだろうか。でも、だめだ。しばら
くは、自由にしてがえるつもりはない。お兄ちゃんは、瑛子だけのものだった。動かれる
と、くすぐったい。少しだけ腕に力をこめていた。両腕の内側で乳房を挟んで、顔に付け
るようにすると、急に静かになった。胸の皮膚に、お兄ちゃんの顔を、押し当てるように
していた。浴槽は、かろうじて両脚はまっすぐに伸ばせるが、もうすこし広くて、ゆった
りしていれば良いと思う。瑛子には、少し窮屈な感じがした。ママには狭いだろう。文句
を言っていたもの。
 大量のお湯が、ざあっと滝のような音を立てて、周囲から溢れていく。お兄ちゃんの脇
の下に手を入れて、少しだけ位置を持ち上げていた。乳房の上にお兄ちゃんのお腹を乗せ
るようにしていた。キスをした。唇を重ねた。舌もからめた。去年は、お兄ちゃんがリー
ドしてくれた。今年は、ぼくがするのだ。そのままで、長い時間が経過していた。たがい
の唾を啜り合っていた。固くなった光一の肉棒が、下腹部をくすぐるのを気持ち良く感じ
ていた。ぼくの臍の穴に先端が、くいくいと、入ってこようとするのが妙におかしかった。
笑いだしそうになってしまった。舌を噛んで堪える必要があった。ようやく満足した。唇
を離した。お兄ちゃんは、肩で荒い息をしていた。酸素が不足したのだか。何をしても可
愛いのには困ってしまう。
 その可愛いあそこに、サービスしてあげる時が来た。ぼくは、お兄ちゃんをもう少しだ
け抱き上げた。浴槽から外に、全身が出るようにした。股間がぼくの口の真上の位置にく
るようにした。お兄ちゃんに、抵抗する暇を与えなかった。ぱくっ。やった。くわえた。
「ああ。あああんっ」
 お兄ちゃんは、妙に可愛い声を出していた。吹き出しそうになってしまった。勃起した
ペニスは、刺身のトロの感触だと本に書いてあったが、それよりは固かった。何といって
よいのか。形容できない。男の味がした。挿入を容易にする潤滑油としての、カウパー液
というものが、分泌されているためだろうか。初体験の味だった。かすかに精液の味も、
するのかもしれない。夜の匂いという感じがした。罌粟の花の匂いというのは、これのこ
となのだろうか?
 
4・フェラチオ
 ぼくは、少しだけ口を開いた。べろん。舌なめずりをした。
「いくわよ……」
 口を大きくあけた。もう一度。ペニスの先端部分だけを、ふくんだ。葡萄一個分の大き
さ。亀頭が、唇に触れるか触れないかというくらい。それが絶妙な締め具合の目安。自分
の指をくわえて練習していた。口を閉じる。ぼくの唇の粘膜は厚い。微妙に愛してあげら
れる。顔を、上下にゆっくりと動かす。ちゅぱ。ちゅぷ。ちゅぷぷ。ちゅぶ。ゆっくりと。
ゆっくりと。顔を動かし続ける。やめては、いけない。
「くうっ……」
 お兄ちゃんの端正な美貌の顔。苦しみに歪んでいる。激しい快感を、唇を噛んで、必死
に堪えている。性の快感と死の苦痛は紙一重だと、ものの本にもあった。そうなのかもし
れない。苦痛に、顔を歪めているようにも、見えるのだから。端正な美貌が、歪んでいる。
妙にぼくの嗜虐癖を、刺激してくる。いじめてやりたくなってしまった。
 チュポンッ。音を立てて、ペニスを吐き出してやった。
「光一、こういうのは、どうかしら?アーン」
 お兄ちゃんに、ぼくの顔面を跨がらせるようにした。両足が顔の左右に垂れている。真
下から、肛門を犯してやる。舌先を挿入してやる。胡桃のような睾丸。おいしそう。二つ
を陰毛ごと口に入れた。しゃぶっていた。
 あまり強くして、痛くしないように。反応を、注意深く観察する。
 舌でタマ玉を回転させる。前よりも、もっと強く。舌先でツン、ツン。陰茎を突いた。
ハーモニカを吹くように。様々な方向から、舌を巻きつけてやる。ぼくの舌は、十分な長
さがある。だって、相手は、チョコクリームのついた、ポッキーのように細かったから。
自由自在よね。会話も、本に書いてあった通りに、いやらしく。
「光一、じらされてて、つらい?もう、先っぽ、なめられたい?我慢できない?なめてほ
しい?」
「…………」
「反応がないと、つまんないなア〜。ここで、やめちゃ、おっか、な〜あ」
 ペニスに、熱い息を吹き掛ける。ふう。ふう。唇に触れるか触れないかの、絶妙な距離。
こうして、じらしとあげると良い。本に書いてあった通り。あたためてあげるだけ。ふう
〜。
「瑛子……」
「何?」
「あ、あの……な、なめてくれないかなア……?」、
「あーあ、言っちゃった。ホント、男って。どうしようもなく。単純な生きものなのよね
え。ちょっと、おちんちんを舐められただけで、こんなに意気地なしに、なっちゃっうん
ですもの」
 言葉でいじめてやる。しゅんとするお兄ちゃん。可愛い。ごめんしてね。本気じゃない
のよ。快感のために、効果があるって、書いてあったんですもの。あそこは、しゅんとな
らないから、たぶん、これで正解なのだろう。男って、本当に不思議な生きものだ。急所
を攻撃されると、借りてきた猫みたいになる。演技を続ける。
「まア、しょうがないか。他ならぬ、お兄ちゃんの頼みだしね。じゃあ、お姉ちゃんの、
長ーい舌で、じ〜っっくりと、いじめてあげますからねえ……」
 なんだか。お兄ちゃんじゃなくて、可愛い弟がいるような気がしてきた。二人兄弟の末
っ子のぼくは、自分の言いなりになる弟が欲しかったのだ。妙な感じだ。身体の大小関係
が変化したことで、気持ちまでが変化していく。
 舌を出した。亀頭に這わせる。レローリッ。ゆっくりと一周。舌は、さらに回転しなが
ら一周。滑らかな舌の裏側。いま、おしっこと精液の出る鈴口の上を通過。舌を表側にす
る。ザラーリッ。ざらつく味蕾。敏感な部分を刺激。さらに大量のカウパー液が、噴出。
とろり、とろとろ。おもしろ〜い。お兄ちゃんを思いのままに、操縦している気分。
 だいたいお兄ちゃんは、ぼくの頭の方を向いているから、ビキニの下だけでお湯の中に
横たわる、瑛子のヌードの美しい風景を見られないのだ。大きな乳房も剥出しで、あたた
かいお湯の中で、自由に踊っているのに。妹のおっぱいの好きな光一には、可哀相なこと
だった。でも、これって、快感だった。小さな操縦桿を、お口で操って、お兄ちゃんを自
由に操縦してるのだから。
「うううううっ」
 光一軍は、もう我慢できない。声を出した。マニュアル通りに、戦闘を継続する。瑛子
軍は、敵の弱点を研究して、知悉しているのだぞ。
 今度は、裏側の筋へ。舌を移動。雁首を、中央から、左へ。右へ。力強く。舌先ではじ
くように。裏の筋を、何度も。上に。下に。なぞる。段差の敏感な部分に。舌を当てる。
なぞる。動かす。はじく。何回も。往復する。ぴちゃ。ぴちゃ。ぺちょ。ぺちょ。自分で
も、いやらしいと思える音が、静かな午後のジャグジーに響く。いいもん。聞いているの
は、夏の海だけだから。
 その度に。ペニスは、ピクン。ピクン。動いている。人間とは別種の海の生きものみた
いだ。お兄ちゃんは、もうすぐ腰から、熱いものを射出するだのろう。ぼくにも、それは
察知できた。ペニスから睾丸まで、皮膚がはち切れそうに固くなっている。大砲の発射準
備は、完了したという感じ。エネルギー充填120%というところだ。
「もう。イきそうよね?ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん、イきたいの?」
「う、うん……」
「じゃあ。言ってちょうだい。『瑛子お姉ちゃん、イかせてください』って!」
「そ、そんな……」
「まさか。文句あるの?あるわけ。ないよねぇ?やめたら、悲しいでしょ?ほら、言って
ごらんなさいな!ぼく」
「え、瑛子お姉ちゃん。イかせて……ください……」
「よしよし、ちゃんと言えたじゃない。おりこうさんね、じゃあ、お姉さんのお口で、ぼ
くちゃんを、イかせてあげますからねエ」
 ぼくは、舌先を鈴口に当てる。小刻みに。チロリ。チロリ。動かしてやる。ブスのアイ
リス・アローズなんかに、色目を使うお兄ちゃんなんて。許してあげないんだから。
 舌先を、クルリ。クルリ。回転させる。亀頭を、ものすごい速さで、なめ続ける。れろ
ん。れろん。れろん。れろん。れろん。れろん。れろれろれれれれれれれれれれれれれれ
れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ
れ。
「もう。イきそう。でしょ?これで。どうだ!」
 鈴口に、強い舌の筋肉を、ねじ込むように挿入。小刻みに震わせる。
 お兄ちゃんを、爆発的な快感が襲う。
 光一は、ついに限界。爆発。波動包発射!!
「うあああああああっ!!」
 光一の体内から、大量の精液が放出される。
 ぴゅる。ぴゅる。ぴゅるるる。
 精液を出しているペニス。ビクン、ビクン。魚のように脈動する。瑛子のお口の中で。
でも、次第に。次第に。小さくなっていく。しぼんでいく。弱くなっていく。柔らかくな
っていく。なんだか残念。でも、なんて可愛いんでしょう。精根使い果した、勇者という
と感じ。がぶっ。噛んで、むしゃむしゃ。食べちゃいたいぐらい。ぼくはお兄ちゃんの、
お湯に濡れて滑らかな筋肉質の素肌を、両手で撫で回す。
 口の中のちょっぴりの精液。(それだって、お兄ちゃんにとっては、全力の放出なのだと
わかったけれど。)舌の上に引き伸ばすようにして、ゆっくりと味わう。高級なワインを、
テイスティングするように。大事に舐める。飲み込む。お兄ちゃん自身の身体を、食べて
いるような快感。事実、そうだった。これは、光一の身体の一部だったものだもの。おい
しかったわ。
新・第三次性徴世界シリーズ・6
夏の妹の巻・2 了
笛地静恵











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GIRL BEATS BOY